エレファント・ビジュアライザー調査記録

ビジュアルプログラミングで数式の変形を表すことを考えていくブロクです。

声に出して読めなくもない数学(2)

前回の議論を「エレファント化」していきます。すなわち、定義から数式の変換で証明できるようにしていきます。

 X を有限次元ベクトル空間  V = K^\nu の有限部分集合とするとき、 X の元の個数を  \#X X で張られた部分空間を  \langle X \rangle と書くことにします。 \langle X_1 \cup \cdots \cup X_n \rangle \langle X_1, \cdots, X_n \rangle と書き、 X_i = \{x\} のとき  X_i のかわりに  x と書いても良いということにします。 X = Y \cup Z Y \cap Z = \varnothing のとき  X = Y + Z と書くことにします。 X = Y + Z のとき  \#X = \#Y + \#Z となります。

1次独立と1次従属

 V = K^\nu の有限部分集合  X が1次独立であるということを以下のように帰納的に定義します。

  • (1) 空集合は1次独立
  • (2)  X は1次独立かつ  v \notin \langle X \rangle ならば  X + \{v\} は1次独立

空集合から (2) を繰り返してできる集合を1次独立とし、そうではない集合を1次従属とします。

(3)  X は1次独立かつ  X = Y + \{v\} ならば  Y は1次独立

[証明]  \#Y に関する帰納法で示します。 \#Y = 0 のときは1次独立の定義 (1) から成り立ちます。
 \#Y \ge 1 として  \#Y より小さいときは成り立っていると仮定します。1次独立の定義より  X = Z + \{u\} を満たす1次独立な  Z とベクトル  u が存在します。 Y = Z のときは成り立ちます。 Y \ne Z とすると  u \ne v Y = (Y \cap Z) + \{u\} Z = (Y \cap Z) + \{v\} となります。帰納法の仮定より  Y \cap Z は1次独立となり、(2) より  Y は1次独立となります。[証明終わり]

(4)  X は1次独立かつ  Y \subseteq X ならば  Y は1次独立

[証明] (3) を繰り返せば成り立ちます。[証明終わり]

(5)  Y \subseteq X かつ  Y は1次従属ならば  X は1次従属

[証明] (4) より成り立ちます。[証明終わり]

(6)  v \in \langle X \rangle \setminus X ならば  X + \{v\} は1次従属

[証明]  v \in \langle X \rangle かつ  X + \{v\} は1次独立と仮定します。 X + \{v\}空集合ではないので (2) より  X + \{v\} = Y + \{w\} かつ  Y は1次独立、 w \notin \langle Y \rangle である  V の部分集合  Y w \in V が存在します。  w = v または  w \in X となります。

  w = v のときは  X + \{v\} = Y + \{v\} かつ  v \notin \langle Y \rangle となります。 X = Y となるので  v \notin \langle X \rangle となって  v \in \langle X \rangle に反します。

 w \in X のときは  X = X' + \{w\} となる  X の部分集合  X' が存在します。 X' + \{w\} + \{v\} = Y + \{w\} X' + \{v\} = Y v \in \langle X \rangle = \langle X', w \rangle となり、 X' = \{u_1, u_2, \cdots, u_n\} とすると  v = a_1 u_1 + a_2 u_2 + \cdots + a_n u_n + bw と表すことができて  v \notin \langle X' \rangle より  b \ne 0 となります。よって  w = \cfrac{1}{b}( -(a_1 u_1 + a_2 u_2 + \cdots + a_n u_n) + v ) \in \langle X', v \rangle = \langle Y \rangle となるので  w \notin \langle Y \rangle に反します。[証明終わり]

(7)  X + Y は1次独立、 v \in \langle X, Y \rangle \setminus \langle Y \rangle ならば

 X^- = X \setminus \{u\} Y^+ = Y + \{v\} \langle X, Y \rangle = \langle X^-, Y^+ \rangle を満たす  u \in X が存在する
[証明]  X = \{u_1, u_2, \cdots, u_n\} Y = \{w_1, w_2, \cdots, w_m\} とすると  v = a_1 u_1 + a_2 u_2 + \cdots + a_n u_n + b_1 w_1 + b_2 w_2 + \cdots + b_m w_m と表すことができます。 v \notin \langle Y \rangle よりある  a_k \ne 0 となります。

 u = u_k X^- = X \setminus \{u\} = \{u'_1, u'_2, \cdots, u'_{n-1}\} とおきます。 v = a_k u + a'_1 u'_1 + a'_2 u'_2 + \cdots + a'_{n-1} u'_{n-1} + b_1 w_1 + b_2 w_2 + \cdots + b_m w_m \in \langle X^-, Y, u \rangle u = \cfrac{1}{a_k}( -(a'_1 u'_1 + a'_2 u'_2 + \cdots + a'_{n-1} u'_{n-1}) - (b_1 w_1 + b_2 w_2 + \cdots + b_m w_m) + v ) \in \langle X^-, Y, v \rangle より  \langle X^-, Y, u \rangle \subseteq \langle X^-, Y, v \rangle かつ  \langle X^-, Y, v \rangle \subseteq \langle X^-, Y, u \rangle となって  \langle X^-, Y, u \rangle = \langle X^-, Y, v \rangle となります。 \langle X, Y \rangle = \langle X^-, Y, u \rangle = \langle X^-, Y, v \rangle = \langle X^-, Y^+ \rangle となります。[証明終わり]

(8)  X, Y は1次独立、 Y \subseteq \langle X \rangle ならば

 X = Y' + Z \#Y = \#Y' \langle X \rangle = \langle Y, Z \rangle Y \cap Z = \varnothing Y + Z は1次独立となる  Y', Z \subseteq X が存在する
[証明]
 n = \#Y に関する帰納法で示します。 n = 0 のときは  Y' = Y Z = X が条件を満たします。 n \ge 1 として  n-1 のとき成り立つと仮定します。

 X = \{u_1, u_2, \cdots, u_{n-1}, u_n, u_{n+1}, \cdots, u_m\} Y = \{v_1, v_2, \cdots, v_{n-1}, v_n\} は1次独立で  Y \subseteq \langle X \rangle とします。

 Y_{n-1} = \{v_1, v_2, \cdots, v_{n-1}\} とおくと  Y_{n-1} は1次独立、 Y_{n-1} \subseteq \langle X \rangle となるので帰納法の仮定より  X = Y'_{n-1} + Z_{n-1} \#Y_{n-1} = \#Y'_{n-1} \langle X \rangle = \langle Y_{n-1}, Z_{n-1} \rangle Y_{n-1} \cap Z_{n-1} = \varnothing Y_{n-1} + Z_{n-1} は1次独立となる  Y'_{n-1}, Z_{n-1} \subseteq X が存在します。 X の順序を入れ替えて  X' = \{u'_1, u'_2, \cdots, u'_{n-1}, u'_n, u'_{n+1}, \cdots, u'_m\} としたとき  Y'_{n-1} = \{u'_1, u'_2, \cdots, u'_{n-1}\} Z_{n-1} = \{u'_n, u'_{n+1}, \cdots, u'_m\} とします。

 v_n \in Z_{n-1} のときは  Y' = Y'_{n-1} + \{v_{n}\} Z = Z_{n-1} \setminus \{v_{n}\} とおくと  X = Y' + Z \#Y = \#Y' \langle X \rangle = \langle Y, Z \rangle Y \cap Z = \varnothing Y + Z は1次独立となります。

 v_n \notin Z_{n-1} とします。

 v_n \in Y \subseteq \langle X \rangle = \langle Y_{n-1}, Z_{n-1} \rangle v_n \in \langle Y_{n-1}, Z_{n-1} \rangle \setminus \langle Y_{n-1} \rangle Y_{n-1} + Z_{n-1} は1次独立であることから (7) より  Z_{n} = Z_{n-1} \setminus \{w\} Y_n = Y _{n-1}+ \{v\} \langle Y_{n-1}, Z_{n-1} \rangle = \langle Y_{n}, Z_{n} \rangle を満たす  w \in Z_{n-1} が存在します。

 v_n \in \langle Y_{n-1}, Z \rangle とすると  w \in \langle Y, Z \rangle = \langle Y_{n-1}, Z, v_n \rangle = \langle Y_{n-1}, Z \rangle
(6) より  Y_{n-1} + Z + \{w\} = Y_{n-1} + Z_{n-1} は1次従属となります。 Y_{n-1} + Z_{n-1} は1次独立なので  v_n \notin \langle Y_{n-1}, Z \rangle となって (2) より  Y + Z は1次独立となります。

 v_n \notin Z_{n-1} なので  Y \cap Z = (Y _{n-1}+ \{v_n\}) \cap (Z_{n-1} \setminus \{w\}) = \varnothing となります。[証明終わり]

(9)  X, Y は1次独立、 Y \subseteq \langle X \rangle ならば  \#Y \le \#X

[証明]  m = \#X n = \#Y とおき、 n \ge m とします。 Y = Y_1 + Y_2, \ \#Y_1 = m となる  Y_1, Y_2 をとることができます。(4) より  Y_1 は1次独立となります。(8) より  X = X' + Y', \ \#Y_1 = \#Y', \ \langle X \rangle = \langle X', Y_1 \rangle を満たす  X', Y' が存在します。 m = \#X = \#X' + \#Y' = \#X' + \#Y_1 = \#X' + m より  \#X' = 0 となって  X' = \varnothing となります。 Y_2 \subseteq Y \subseteq \langle X \rangle = \langle X', Y_1 \rangle = \langle Y_1 \rangle となって  Y_1 は1次独立なので (6) より  Y_2 = \varnothing となります。 n = \#Y = \#Y_1 + \#Y_2 = \#Y_1 = m より  n \ge m ならば  n = m となります。よって  n \le m となり  \#Y \le \#Xとなります。[証明終わり]

(10)  X, Y は1次独立、 \langle X \rangle = \langle Y \rangle ならば  \#X = \#Y

[証明] (9) より  \#Y \le \#X かつ  \#X \le \#Y となるので  \#X = \#Y となります。[証明終わり]

声に出して読めなくもない数学(1)

無限の順序を指定する方法を考えるということがこのブログの1つの目的なのですが、そのためには数学の理論のイメージを持つ必要があると考えています。「声に出して読みたい…」というのが以前ありましたが、数学に置き換えると数式の操作を通じてイメージを得るということになるのでしょうか。そのための数式の操作の動画を作ることはできないかということを考えていきます。

普通の数式の操作の動画はすでに存在すると思われますので、ここでは帰納的な定義から導かれる操作について、論理プログラミング的な方法で操作をすることを考えていきます。論理プログラミング的な方法とは、「定義を書けば計算してくれる」のような意味です。ここではそのような計算ができる「エレファント電卓」を作っていって、そこで最終的に動画を作れるようにしたいと考えています。「エレファントなポアンカレ予想」の中で何でも計算でやるのは「エレファント」というのではないか、というようなことを書いたのでここでも「エレファント」という言葉を使いますが、本来の意味とは違うかもしれません。

ホモロジーの計算をやっていたら行列のランクの計算が出てきたので、まず行列のランクについて考えます。

行列のランク

 K の元を成分とする行列
 \hspace{4em} A = \begin{pmatrix}
a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\
a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn} \\
\end{pmatrix}
の各行を  u_i = (a_{i1} , a_{i2} , \cdots , a_{in})  (i = 1, 2, \cdots , n) とおきます。 u_i をベクトル空間  K^n の元(ベクトルと呼びます)と考えます。 \{u_1, u_2, \cdots , u_n\} の中の1次独立なベクトルの最大個数を行列  A のランクと呼び  \operatorname{rank}(A) と書きます。

 \{u_1, u_2, \cdots , u_n\} を含む最小の  K^n の部分ベクトル空間(部分空間)を  \{u_1, u_2, \cdots , u_n\} によって張られた部分空間と呼びます。ここでは  \{\{u_1, u_2, \cdots , u_n\}\} と書きます。 \{\{u_1, u_2, \cdots , u_n\}\} = \{a_1 u_1 + a_2 u_2 + \cdots + a_n u_n \mid a_1, a_2, \cdots , a_n \in K\} となります。 \operatorname{rank}(A) \{\{u_1, u_2, \cdots , u_n\}\} の次元となります。

ベクトル空間の基底の個数が1次独立な元の最大個数と一致することは「群論の計算(17)」でも説明しましたが、また後で説明することにします。 K^n の次元は  n となります。

行列のランクの帰納的定義

 \hspace{4em} A_k = \begin{pmatrix}
a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\
a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{k1} & a_{k2} & \cdots & a_{kn} \\
\end{pmatrix}
とおきます( k \le m)。 V_k = \{\{u_1, u_2, \cdots , u_k\}\} r_k = \operatorname{rank}(A_k) = \dim V_k とおきます。 r_0 = 0 r_m = \operatorname{rank}(A)
 \hspace{4em} \displaystyle r_{k+1} = \begin{cases}
r_k       & (u_{k+1} \in V_k \ のとき),\\
r_k + 1 & (u_{k+1} \notin V_k \ のとき)
\end{cases}
となります。

行列の基本変形

 V = \{\{u_1, u_2, \cdots , u_n\}\} とおきます。

  • ある  u_i \in \{u_1, u_2, \cdots , u_n\} u_i c(c \in K \setminus \{0\}) で置き換えたもので張られた部分空間を  V_1 = \{\{u_1, \cdots , cu_i, \cdots , u_n\}\} ( i 番目が  cu_i)とすると、 V = V_1 となります。
  • ある  u_i\in \{u_1, u_2, \cdots , u_n\} u_i u_i とは異なる  u_j\in \{u_1, u_2, \cdots , u_n\} c(c \in K) を加えたもので置き換えたもので張られた部分空間を  V_2 = \{\{u_1, \cdots , u_i + cu_j, \cdots , u_n\}\} ( i 番目が  u_i + cu_j)とすると、 V = V_2 となります。
  • ある  u_i\in \{u_1, u_2, \cdots , u_n\} u_i とは異なる  u_j\in \{u_1, u_2, \cdots , u_n\} を入れ替えたもので張られた部分空間を  V_3 = \{\{u_1, \cdots , u_j , \cdots , u_i, \cdots , u_n\}\} ( i 番目が  u_j j 番目が  u_i)とすると、 V = V_3 となります。

これらの操作

  • 行列のある行  u_i c 倍する (c \in K \setminus \{0\})
  • 行列のある行  u_i に別の行  u_j c 倍を加える。(c \in K)
  • 行列のある行  u_i と別の行  u_j を入れ替える。

を行列の基本変形と呼びます。上に書いた議論により行列の基本変形によって行列のランクは変わりません。

これは列に対しても成り立ちます。列に対する操作も行列の基本変形と呼びます。これも後で説明します。

階段行列

 i \le k となる  i に対しては  i 行の成分は

  • 先頭の  p_i 個の成分は  0
  •  p_i+1 個目の成分は  1

で、 i \le k-1 に対して  p_i < p_{i+1} であり、 i \ge k+1 となる  i に対しては  i 行の成分はすべて  0 である
 \hspace{4em} \begin{pmatrix}
1        & a_{12} & a_{13} & a_{14} & a_{15} \\
0        & 0        & 1        & a_{24} & a_{25} \\
0 & 0 & 0 & 0 & 1 \\
0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\
\end{pmatrix}
のような行列を階段行列と呼びます。

 A k 行までを階段行列に変形した行列  B_k帰納的に作っていきます。 B_0 = A l_0 = 0 とおきます。 k 行までを階段行列に変形したとき  l_k 列まで階段行列に変形されているとします。

 B_k から  B_{k+1} を作ります。 B_k (i, j) 成分を  b(k,i,j) と書くことにします。

 \hspace{4em} \begin{matrix}
b(k,k+1,l_k+1) & \cdots & b(k,k+1,n) \\
\vdots & \ddots & \vdots \\
b(k,m,l_k+1) & \cdots & b(k,m,n) \\
\end{matrix}
の成分がすべて  0 であるとき  B_k は階段行列となります。階段行列になったとき  k A のランクとなります。とくに  k=m のとき  B_k は階段行列となります。

そうではないときは  B_{k+1} を作ります。
 \hspace{4em} \begin{matrix}
b(k,k+1,l_k+1) & \cdots & b(k,k+1,r-1) \\
\vdots & \ddots & \vdots \\
b(k,m,l_k+1) & \cdots & b(k,m,r-1) \\
\end{matrix}
の成分がすべて  0 である最大の  r をとります。

 b(k,k+1,r) = 0 のときは  b(k,k',r) \ne 0 であるような  k' 行を  k+1 行に加えて(または行を入れ替えて)得られる行を
 b'(k,k+1,1), b'(k,k+1,2), \cdots , b'(k,k+1,n)
とすると、 b'(k,k+1,r) \ne 0 となります。

  • この行の各成分を  b'(k,k+1,r) で割った行を  B_{k+1} k+1 行、
  •  B_{k} k+2 行から  m 行までの各行を、その行( s 行)の各成分から  B_{k+1} k+1 行の  b(k+1,s,r) 倍を引いたものを  B_{k+1} k+2 行から  m 行、
  •  B_{k} 1 行から  k 行までの各行を  B_{k+1} 1 行から  k

としたものを  B_{k+1} とします。 l_{k+1} = r+1 とします。

この  B_{k} から  B_{k+1} への1回の変形は

  •  b(k,k+1,r) = 0 のときは「 k' 行を  k+1 行に加える」または「 k' 行と  k+1 行を入れ替える」
  •  k+1 行を  b'(k,k+1,r) で割る」
  •  k+2 行から  m 行までの  s 行に対して「 s 行から  k+1 行の  b(k+1,s,r) 倍を引く」

という基本変形を続けたものになっています。

 k = m になれば階段行列になるので、この手順は  m 回以内に終了して階段行列ができます。

線型代数 (ちくま学芸文庫)

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  • 作者:毅, 森
  • 発売日: 2020/01/10
  • メディア: 文庫

エレファントなポアンカレ予想(1)

「論理プログラミング的ポアンカレ予想」は「エレファントなポアンカレ予想」に変更しました。エレガントではないものをエレファントというそうです。「補助線を1本引けば証明できる」というのがエレガントであるのに対して「計算すればできる」というのがエレファントとなります。この意味でホモロジーホモトピーの計算は非常にエレファントと言うことができます。これを論理プログラミング的な手法でさらにエレファントにすることができるか、ということが「エレファントなポアンカレ予想」の一連の記事の目標となります。

「はじめてのトポロジー」では曲面の分類を行っているので、この計算をやってみたいと思うのですが、曲面の定義は

  • ある図形  M の上の任意の点  P について、 P の周囲が円板と同じ形をしているとき、その図形を曲面という。

となっています。これは「2次元多様体」のことを表していると考えられますが分類については「連結2次元閉多様体」の分類を行っていると考えられます。この定義もどこかに書かれているのかもしれませんがよくわかりません。

このままでは計算をするのは難しいということと、ホモロジーの計算には三角形に分割すれば良いらしいということで三角形で考えることにして、

  • 有限個の三角形を辺のところでつなげたもので
  • 任意の三角形の辺には別の1つの三角形がつながっていて
  • 任意の三角形から別の三角形に隣の三角形をたどって到達することができる

という図形に同相であるものをここでは曲面と呼ぶことにします。

多様体、同相の定義はなくても計算はできそうなので定義は後回しとします。

この本には証明は載っていないようですが、曲面の分類について以下のようなことが書かれています。証明は三角形に分割すればできるらしいです。

定義

  • 曲面  M 上の閉曲線を曲面上の切断線といい、その切断線が曲面を2つの部分に分けるとき、その閉曲線をホモローグ0の切断線という。
  • 球面上の切断線はすべてホモローグ0です。このことを「球面の1次元ホモロジー群は0である」といいます。
  • トーラスのホモローグ0でない切断線の様子を表す  \mathbb{Z} \oplus \mathbb{Z} をトーラスの1次元ホモロジー群といいます。

定理(曲面の1次元ホモロジー群)

  • 球面  S :  H_1(S) = 0
  • 種数  n のトーラス  T_n :  H_1(T_n) = \mathbb{Z} \oplus \mathbb{Z} \oplus \cdots \oplus \mathbb{Z} ( 2n 個)
  • クライン管  K :  H_1(K) = \mathbb{Z} \oplus \mathbb{Z}_2
  • 射影平面  P :  H_1(P) = \mathbb{Z}_2

論理プログラミング的ポアンカレ予想(3)

ポアンカレ予想の主張「単連結な3次元閉多様体は3次元球面に同相である」の2次元の場合を考えていきます。「単連結」。「次元」、「閉」の定義をまだ書いていませんが、これは後で定義することにします。

「はじめてのトポロジー」という本を参考にします(「読むトポロジー」も内容は同じです)。この本はポアンカレ予想について書かれたものではないので、主に2次元の場合が書かれているようです。細かいところは省略して本を全部見て見ました(この本はこのような読み方でも読めます)が、「トーラスと球面」のあたりから見ていけば良さそうなのでこのあたりから見ていきます。

曲面の分類

「トーラスと球面」のところに「トーラスの展開図」と「球面の展開図」という図が書かれています。これが最終的には曲面の分類になると思われます。「曲面の分類」として、曲面は球面、種数  n のトーラス、または種数  n のトーラスに1つのメビウスの帯か1つのクライン管を貼り合わせたものとなると書かれています。この理由がどこに書いてあるのかよくわからないのですが、この後にホモロジーによって分類が行われているのでそれがわかればわかるということかもしれません。そのためにはホモロジーの説明をしなければなりません。

ホモロジーについては「大学数学の入門5幾何学2 ホモロジー入門」を参考にします。「層とホモロジー代数」という本は持っているのですがこれはまだ読んでいませんでした。他にもホモロジーのことが書かれた本はあったかもしれないのですがホモロジーのところは読んでいなかったようです。まずはWikipediaを参照して定義を書いておきます。

ホモロジー

アーベル群の列  C_0, C_1, C_2, \cdots と境界作用素とよばれる群準同型の列  ∂_n: C_n → C_{n-1} で任意の  n に対して  \partial _{n}\circ \partial _{{n+1}}=0 を満たすものをチェイン複体と呼びます。 i < 0 に対しては  C_i = 0 として
 \hspace{2em} \dotsb {\overset  {\partial _{{n+1}}}{\longrightarrow \,}}C_{n}{\overset  {\partial _{n}}{\longrightarrow \,}}C_{{n-1}}{\overset  {\partial _{{n-1}}}{\longrightarrow \,}}\dotsb {\overset  {\partial _{2}}{\longrightarrow \,}}C_{1}{\overset  {\partial _{1}}{\longrightarrow \,}}C_{0}\longrightarrow 0
とします。

 \partial _{n}\circ \partial _{{n+1}}=0 より  \operatorname{Im}(∂_{n+1}) ⊆ \operatorname{Ker}(∂_n) となります。各  C_n はアーベル群なので、 \operatorname{Im}(∂_{n+1}) \operatorname{Ker}(∂_n)正規部分群となります。 Z_n = \operatorname{Ker}(∂_n) をサイクル、 B_n = \operatorname{Im}(∂_{n+1})バウンダリと呼びます。剰余群  H_n = Z_n / B_n nホモロジー群と呼びます。

論理プログラミング的ポアンカレ予想(2)

2次元の場合を見ていく前に、ホモトピーの定義がないとわかりにくいので、定義を書いていきます。ホモトピーのことが書かれた本を持っていなかったので「大学数学の入門5幾何学2 ホモロジー入門」という本を買いました。この本に従って説明をしていきますが、一般的な定義が何かよくわからないのでWikipediaも参考にします。多様体については本を持っていたと思うのですが見つからないので「大学数学の入門4幾何学1 多様体入門」という本を買いました。上記の本と同じシリーズなので整合性があると思われます。多様体についてはこの本に従って説明していきます。

基本群

 X位相空間とします。 \mathbb{R} の閉区間  [0, 1] = \{ x \in \mathbb{R} \mid 0 \le x \le 1 \} から  X への連続写像  f X 内の道と呼びます。 f(0) を始点、 f(1) を終点と呼びます。始点と終点が一致する道をループと呼びます。

連続写像  H: [0, 1] × [0, 1] → X が、 X 内の 2 つの道  f  g に対して  H(0, t) = f(t) かつ  H(1, t) = g(t) を満たすとき、写像  H を道  f, g の間のホモトピー写像と呼びます。2 つの道  f, g の間にホモトピー写像が存在するとき、 f g はホモトピック、または同じホモトピー型であるといい、 f \simeq g と表します。関係  \simeq は同値関係となります。この同値関係に関して道  f が属する同値類のことを  fホモトピー類といい、 [f] と表します。

 f, g に対して、 f(1) = g(0) が成り立つとき、積  f*g
 \displaystyle (f*g) (t)={\begin{cases} f(2t)&(0\leq t\leq {\frac {1}{2}}),\\
g(2t-1)&( {\frac {1}{2} } < t\leq 1)\end{cases}}
と定義します。また道  f に対し、 f の逆道  f^{−1} f^{−1}(t) = f(1 − t) と定義します。

位相空間  X 内の 1 点  p に対して、 p を基点とするループの全体  Ω(X, p) は、道の積に関して閉じています。この集合の同値関係  \simeq による商集合  \pi_1(X, p) に演算を  [f][g] = [f*g] と定義すると  \pi_1(X, p) はこの演算によって群となります。 [f]^{−1} = [f^{−1}] となります。この群を  X p を基点とする基本群または 1 次元ホモトピー群と呼びます。

 \varphi: X \to Y位相空間の間の連続写像とすると  [f] [\varphi \circ f] を対応させる写像  \pi_1(X, p) \to \pi_1(Y, \varphi(p)) は基本群の間の準同形写像となります。

ホモトピー

位相空間  X , Y連続写像  f_0: X \to Y f_1: X \to Y に対して、連続写像  H: [0,1] \times X \to Y f_0(x) = H(0, x) f_1(x) = H(1, x) を満たすものが存在するとき  f_0 f_1 はホモトピック、または同じホモトピー型を持つといい、 f_0 \simeq f_1 と表します。連続写像  H あるいは  f_t(x) = H(t, x) で定義される連続写像の族  \{f_{t}\}_{{t\in [0,1]}} f_0 f_1 の間のホモトピーと呼びます。

ホモトピー群

位相空間  X の点  p に対して、 p を基点とする  n 次元球面  S^n X への連続像の全体を  Ω^n(X, p) とします。この集合の同値関係  \simeq による商集合  π_n(X, p) は群となります。この  π_n(X, p) n 次元ホモトピー群と呼びます。

位相空間の間の連続写像  \varphi: X \to Y から基本群の場合と同様に作られた写像  \pi_n(X, p) \to \pi_n(Y, \varphi(p)) は、高次ホモトピー群の間の準同形写像となります。

論理プログラミング的ポアンカレ予想(1)

ポアンカレ予想の説明をWikipediaに従って書いてみます。ポアンカレ予想は1904年にアンリ・ポアンカレによって提出されたもので「単連結な3次元閉多様体は3次元球面に同相である」という主張で、7つのミレニアム懸賞問題のうち唯一解決されている問題となります。グリゴリー・ペレルマンによって2002年から2003年に発表された論文で解決されたと言われています。

ポアンカレ予想の一般化として「 n 次元ホモトピー球面は  n 次元球面同相である」という問題を考えることができます。この問題は  n=2 の場合は古典的な事実であり、 n \ge 5 の場合はスティーヴン・スメイルによって(1960年)、 n=4 の場合はマイケル・フリードマンによって (1982年) 証明されたということです。

ここでは  n=2 または  n=3 の場合の問題を「論理プログラミング的に」説明することを目標とします。3次元球面はイメージしにくいので2次元(上に書いたようにこれはポアンカレ予想ではないのですが)から始めることにします。うまく計算ができるようになれば計算を通して3次元の場合もイメージできると思われますができるかどうかは今のところはわかりません。

これを説明するのにホモトピーという考え方が必要なのですが、ホモトピーの本を持っていないのでまずはトポロジー関係の本を見ていくことにします。

「はじめてのトポロジー」という本を参考にします。「読むトポロジー」という本も内容は同じなのですが、縦書きなので読みにくいです。

ポアンカレ予想については「低次元の幾何からポアンカレ予想へ ~世紀の難問が解決されるまで~」という本を参考にします。ポアンカレ予想関連の本はペレルマンについて書いていてポアンカレ予想についてはあまり書いていないものが多いです。

参考文献

論理プログラミング的リーマン予想(1)

この記事の目的

ここでやりたいことは「論理プログラミング的な手法によってリーマン予想がどのような問題なのかの説明をする」ということです。論理プログラミングの説明を書いていたときに、なかなか説明を簡単に書くことができなくて、何か書くための方法が必要だと感じました。このブログの1つの目的が、極限に関する記述を簡単にするということなので、それにつながるような形で何か方法が見つかれば良いということでリーマン予想の説明をしてみることにしました。リーマン予想を解決しようというものではありませんし、論理プログラミングを使って何かやろうということでもありません。極限の計算、不等式の計算、関数の定義などで、論理プログラミング的なアプローチが使えないか、ということを考えていきます。できるのかどうかはわかりません。

リーマン予想を解こう ~新ゼータと因数分解からのアプローチ~ (知の扉)」という本を参考にしようと思います。「リーマン予想の今,そして解決への展望 (数学への招待)」、「21世紀の新しい数学 ~絶対数学リーマン予想、そしてこれからの数学~ (知の扉)」も参考にします(Kindle版があります)。

リーマン予想を解こう」を見るとまずは解析接続を知らないといけないということらしいので、「基礎数学 8 [新版] 複素解析」という本にゼータ関数のことが書いてあるのでこれを参考にしようと思います。「リーマン予想を解こう」では「留数解析―留数による定積分級数の計算 (数学ワンポイント双書 28)」が勧められていますがこの本は持っていないので。「複素関数概論 (数学基礎コース)」、「複素解析 1変数解析関数 (ちくま学芸文庫)」も参考にします。定義はWikipediaに従う場合があります。

リーマン予想を解こう ~新ゼータと因数分解からのアプローチ~ (知の扉)

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  • 作者:黒川 信重
  • 発売日: 2014/02/18
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リーマン予想の今,そして解決への展望 (数学への招待)

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基礎数学8新版 複素解析

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複素関数概論 (数学基礎コース)

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複素解析 1変数解析関数 (ちくま学芸文庫)

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