はてなダイアリーに対称式の基本定理について書いていたのですが、これもなぜか読みにくくなっているのでちょっと直して再び掲載していこうと思います。
文字を使った式
文字を含む式の中で、加法、減法、乗法だけで書けるもの(たとえばのようなもの)は、
という形にすることができます(たとえばのときはと書ける)。 この
という形の式を変数の多項式といいます。多項式の和、積は多項式になります。多項式
と
の加法は、まずとの大きい方に合わせてをまたはとして付け加えて(のときはを付け加える)
となります。多項式との乗法は
となります。
1変数の多項式
以上のことを考えて、環上の多項式を以下のように定義します。 を単位元をもつ可換環とします。
()という形の式を、の元を係数とする変数(不定元ともいいます)の多項式といいます。多項式の加法、乗法は上に書いたように(文字を含む式の加法、乗法のように)定義することができます。この演算によって多項式全体の集合は単位元をもつ可換環となります。これを上の変数の多項式環といい、と書きます。
多変数の多項式
複数の変数に関する多項式も同様に定義することができます。 変数の多項式とは、1変数の場合と同様に、文字から加法、減法、乗法によってできる式となります。多項式の加法、乗法を、やはり通常の加法、乗法のように定義することができ、この演算によって多項式全体の集合は単位元をもつ可換環となります。これを上の変数の多項式環といい、と書きます。
対称式の基本定理・証明1・3変数の場合
では、「対称式の基本定理」の証明を書こうと思いますが、これはけっこうめんどうなので、まず3変数の場合からやってみます。
対称式の基本定理
[定理]
対称式は基本対称式の多項式となります。これを3変数()の場合について証明します。この場合基本対称式は となります。
[証明]
を対称式とします。 は という形の式の和の形で書くことができます。 この という形の式を単項式といいます。 の中に(和の成分として)含まれている単項式を項ということにします。
例
この証明は、実際に対称式を基本対称式の多項式で表す方法を示しています。
を基本対称式
の多項式で書いてみます。
第1段階
に含まれる項の中で、定理の証明で述べた順序に関して最大の項は
となります。
によって変形する(両辺の差をとる)と
となります。
第2段階
に含まれる項の中で、定理の証明で述べた順序に関して最大の項は
となります。
によって変形する(両辺の差をとる)と
となります。
第3段階
に含まれる項の中で、定理の証明で述べた順序に関して最大の項は
となります。
によって変形する(両辺の差をとる)と
となります。
第4段階
に含まれる項の中で、定理の証明で述べた順序に関して最大の項は
となります。
によって変形する(両辺の差をとる)と
となります。
第5段階
に含まれる項の中で、定理の証明で述べた順序に関して最大の項は
となります。
によって変形する(両辺の差をとる)と
となります。
これで を含む項はなくなって、は基本対称式の多項式として表すことができました。
[証明の続き]
の中にとという項があるとすると、これらの項をまとめてとすることができます。 よってに含まれる項は、、のどれかが異なるようにすることができます。 多項式をこの形に書き直したときのに含まれる項全体の集合をとします。
を集合の置換(集合からそれ自身への全単射)とすると、 単項式に単項式を対応させる写像を定義することができます。 この(単項式全体の集合からそれ自身への)写像もと書くことにします。このような写像を の置換ということにします。
の元をとります。 を の置換とすると、 は対称式なので もの元となります。 に対して、 のすべての置換によってできる(の中の異なるもの)全体の集合をとすると、 はに含まれます。
単項式全体の集合に以下のように順序を定義します。 単項式とは、、またはかつ、またはかつかつであるときにであるとします。 この順序は全順序となります。 、またはかつ、またはかつかつであるときにと書くことにします。
は空ではないとし、順序に関して最大となるの元をとります。
の中での次数が最大の元は
の元となります。この中での次数が最大の元は
となります。 よってはを含み、
の中で順序に関して最大となる元をとするととなります。
よって
とおくと順序に関するの最大元はとなります。 ここで、もしが基本対称式の多項式であるとすると、も基本対称式の多項式となります。 よって、が基本対称式の多項式であることを証明すればよいということになります。
からを作ったのと同じ方法で、から、から、と順に作っていくと、どこかのでとなるか、または順序に関して最大となる元のの次数はとなります。すなわちは定数となるので、基本対称式の多項式となります。 したがって元のも基本対称式の多項式となるということがわかります。
[証明終わり]