エレファント・ビジュアライザー調査記録

ビジュアルプログラミングで数式の変形を表すことを考えていくブロクです。

群論の計算(15)

複素数(2)

『新版 集合と位相 そのまま使える答えの書き方 (KS理工学専門書)』*1 を参考にしています。

実数の上限・下限

 A \subseteq \mathbb{R} に対して

  • 任意の  x \in A に対して  a \le x

であるような  a \in \mathbb{R} A の下界と呼びます。 A の下界が存在するとき  A は下に有界であると言います。

 A \subseteq \mathbb{R} に対して

  •  a \in \mathbb{R} A の下界で
  • 任意の  A の下界  x に対して  x \le a

であるような  a \in \mathbb{R} A の下限または最大下界と呼びます。 A が下限を持てば一意的となります。 A の下限を  \inf A と書きます。

実数のコーシー列が極限を持つことから以下の主張が成り立ちます。

任意の空ではない  A \subseteq \mathbb{R} に対して  A が下に有界ならば  A の下限が存在します。

[証明]  A の下界  a b \in A をとります。数列  a_1, a_2, \cdots b_1, b_2, \cdots c_1, c_2, \cdots を次のように作ります。まず  a_0 = a b_0 = b とおきます。 c_1 = \cfrac{a_0+b_0}{2} とおきます。
 c_1 A の下界であるとき  a_1 = c_1 b_1 = b_0 とおきます。
 c_1 A の下界ではないとき  a_1 = a_0 b_1 = c_1 とおきます。
これを繰り返して  c_{k+1} = \cfrac{a_k+b_k}{2} とおきます。
 c_{k+1} A の下界であるとき  a_{k+1} = c_{k+1} b_{k+1} = b_k
 c_{k+1} A の下界ではないとき  a_{k+1} = a_k b_{k+1} = c_{k+1}
帰納的に定義します。
 (a_n)_{n \in \mathbb{N}} はコーシー列なので  \alpha \in \mathbb{R} が存在して  \alpha = {\lim}_\mathbb{R} (a_n)_{n \in \mathbb{N}} となります。任意の  \varepsilon \gt 0 に対して  a_n, b_n \in U_\mathbb{R}(\alpha, \varepsilon) となる  n \in \mathbb{N} が存在します。

 \alpha A の下界ではないと仮定すると  x \lt \alpha となる  x \in A が存在します。 a_n \in U_\mathbb{R}(\alpha, \alpha - x) となる  n \in \mathbb{N} が存在します。 a_n A の下界ですが  x \lt a_n なので  A の下界ではないとなって矛盾となります。よって  \alpha A の下界となります。

 \alpha A の下限ではないと仮定すると  \alpha \lt y となる  A の下界  y が存在します。 b_n \in U_\mathbb{R}(\alpha, y - \alpha) となる  n \in \mathbb{N} が存在します。 b_n A の下界ではないのですが  b_n \lt y なので  A の下界となって矛盾となります。よって  \alpha A の下限となります。 [証明終わり]

同様に順序を逆にした上界、上に有界、上限も定義します。上に有界かつ下に有界であるとき有界であると言います。

任意の空ではない  A \subseteq \mathbb{R} に対して  A が上に有界ならば  A の上限が存在します。

距離空間

集合  X写像  d: X \times X \to \mathbb{R}

  •  d(x, y) \ge 0 \ \ (\forall x, y \in X)
  •  d(x, y) = 0 \iff x = y \ \ (\forall x, y \in X)
  •  d(x, y) = d(y, x) \ \ (\forall x, y \in X)
  •  d(x, z) \le d(x, y) + d(y, z) \ \ (\forall x, y, z \in X)(三角不等式)

を満たすとき  X距離空間と言います。 d X 上の距離と言います。

実数の距離  d_\mathbb{R}: \mathbb{R} \times \mathbb{R} \to \mathbb{R} d_\mathbb{R}(x, y) = |x - y| と定義します。 \mathbb{R}距離空間となります。

複素数の距離  d_\mathbb{C}: \mathbb{C} \times \mathbb{C} \to \mathbb{R} d_\mathbb{C}(x, y) = |x - y| と定義します。 \mathbb{C}距離空間となります。

開集合・閉集合

 X距離空間 d_X: X \times X \to \mathbb{R} X 上の距離とします。正の実数全体の集合を  \mathbb{R}^+ とおきます。

 a \in X \varepsilon \in \mathbb{R}^+ に対して  U_X(a, \varepsilon) \subseteq X

  •  U_X(a, \varepsilon) = \{ x \in X \ | \ d_X(a, x) \lt \varepsilon \}

とおきます。

 U \subseteq X

  • 任意の  x \in U に対して  \varepsilon \in \mathbb{R}^+ が存在して  U_X(x, \varepsilon) \subseteq U

であるとき は  X の開集合と呼びます。 X の開集合全体の集合を  \mathcal{U}(X) と書くことにします。

 U \subseteq X X \setminus U が開集合であるとき は  X閉集合と呼びます。 X閉集合全体の集合を  \mathcal{C}(X) と書くことにします。

 A \subseteq X A \subseteq U_X(a, \varepsilon) を満たす  a \varepsilon が存在するとき  A有界であると言います。

 X距離空間 A \subseteq X閉集合とします。 A に含まれる点列  (a_n)_{n \in \mathbb{N}} a に収束すれば( \lim (a_n)_{n \in \mathbb{N}} = a となる  a が存在すれば)、 a \in A となります。

[証明]  a \not \in A と仮定すると  A閉集合であるから  A \cap U_X(a, \varepsilon) = \varnothing となる  \varnothing \gt 0 が存在します。 \lim (a_n)_{n \in \mathbb{N}} = a であることから  a_n \in U_X(a, \varepsilon) となる  n が存在します。 a_n \in A \cap U_X(a, \varepsilon) となって  A \cap U_X(a, \varepsilon) = \varnothing に反することになります。よって  a \in A が成り立ちます。 [証明終わり]

連続写像

集合  X Y X の開集合全体の集合  \mathcal{U}(X) Y の開集合全体の集合  \mathcal{U}(Y) が定義されているものとします。
写像  f: X \to Y

  •  U \in \mathcal{U}(Y) ならば  f^{-1}(U) \in \mathcal{U}(X)

であるとき連続写像と言います。

 A \subseteq X に対して  A の開集合全体の集合を  \mathcal{U}(A) = \{ U \cap A \ | \ U \in \mathcal{U}(X) \} とします。

点列コンパクト

 X距離空間とします。 A \subseteq X に含まれる任意の点列  (a_n)_{n \in \mathbb{N}} が収束する部分列を持つとき、 A は点列コンパクトであると言います。

 X距離空間とします。 A \subseteq X が点列コンパクトであれば  A有界となります。

[証明]  A有界ではないと仮定します。 a \in A が存在して、任意の  n \in \mathbb{N} に対して  a_n \not \in U_X(a, n) となる  a_n \in A が存在します。 (a_n)_{n \in \mathbb{N}} は収束する部分列を持たないので  A は点列コンパクトではありません。よって  A が点列コンパクトであれば  A有界となります。 [証明終わり]

 X距離空間 A \subseteq X は点列コンパクトとします。 B \subseteq A閉集合とすると  B は点列コンパクトとなります。

[証明]  (a_n)_{n \in \mathbb{N}} B に含まれる点列とします。 (a_n)_{n \in \mathbb{N}} A に含まれて  A は点列コンパクトなので、ある  a \in A に収束する部分列  (b_n)_{n \in \mathbb{N}} が存在します。 B閉集合なので  a \in B となります。よって  B は点列コンパクトとなります。 [証明終わり]

 A \subseteq \mathbb{C}有界閉集合とすると、 A は点列コンパクトとなります。

[証明] まず  a, b, c, d \in \mathbb{R} に対して
 B = \{ x + yi \ | \ a \le x \le b, c \le y \le d \}
が点列コンパクトとなることを示します。
 (a_n)_{n \in \mathbb{N}} A に含まれる点列とします。 B_0 = B とします。 x = \cfrac{a+b}{2} y = \cfrac{c+d}{2} で4つに分割すると、どれか1つには無限個の  a_n が含まれます。それを  B_1 とします。これを繰り返して  B=B_0 \supseteq B_1 \supseteq B_1 \supseteq \cdots という部分集合の列を作ります。 B_0 \setminus B_1, B_1 \setminus B_2, B_2 \setminus B_3, \cdots に含まれる元で部分列  (b_n)_{n \in \mathbb{N}} を作ることができます。 (b_n)_{n \in \mathbb{N}} はコーシー列となるので  a = \lim (b_n)_{n \in \mathbb{N}} となる  a が存在します。 B閉集合なので  a \in B となります。よって  B は点列コンパクトとなります。

 A有界なので  c \in \mathbb{C} r \gt 0 が存在して  A \subseteq U_\mathbb{C}(c, r) となります。 c = u + vi \ (u, v \in \mathbb{R}) とすると  C = \{ x + yi \ | \ u - r \le x \le u + r, v - r \le y \le v + r \} とおくと  U_\mathbb{C}(c, r) \subseteq C となります。上に書いたことから  C は点列コンパクトであり、 A閉集合なので  A は点列コンパクトとなります。[証明終わり]

最大値定理

 X Y距離空間 f: X \to Y連続写像とします。 (a_n)_{n \in \mathbb{N}} X の収束する点列で  a = \lim (a_n)_{n \in \mathbb{N}} とすると、 f(a) = \lim (f(a_n))_{n \in \mathbb{N}} となります。

[証明]  \varepsilon \gt 0 をとります。 U = f^{-1}(U_Y(f(a), \varepsilon)) とおきます。 f が連続であることから  U は開集合となります。 a \in U なので  U_X(a, \delta) \subseteq U となる  \delta \gt 0 が存在します。 a = \lim (a_n)_{n \in \mathbb{N}} なので  a_n \in U_X(a, \delta) となる  n \in \mathbb{N} が存在します。 f(a_n) \in f(U_X(a, \delta)) \subseteq f(U) \subseteq U_Y(a, \varepsilon) となるので  f(a) = \lim (f(a_n))_{n \in \mathbb{N}} となります。 [証明終わり]

 X Y距離空間 A \subseteq X を点列コンパクト、 f: A \to Y連続写像とすると、 f(A) は点列コンパクトとなります。

[証明]  (y_n)_{n \in \mathbb{N}} f(A) の点列とします。 A の点列  (a_n)_{n \in \mathbb{N}} で任意の  n \in \mathbb{N} に対して  y_n = f(a_n) であるものが存在します。 A は点列コンパクトなので  (a_n)_{n \in \mathbb{N}} の収束する部分列  (b_n)_{n \in \mathbb{N}} が存在します。 (f(b_n))_{n \in \mathbb{N}} (y_n)_{n \in \mathbb{N}} の部分列となります。 f が連続であることから  \lim (f(b_n))_{n \in \mathbb{N}} = f(\lim (b_n)_{n \in \mathbb{N}}) となります。よって  f(A) は点列コンパクトとなります。 [証明終わり]

 X距離空間 A \subseteq X を点列コンパクトである空ではない部分集合、 f: A \to \mathbb{R}連続写像とすると、 f(A) の最大値、最小値が存在します。

[証明]  f(A) は点列コンパクトとなります。よって  f(A) は上に有界となって、実数の性質から上限  a = \sup f(A) が存在します。
任意の  \varepsilon \gt 0 に対して  f(A) \cap U_\mathbb{R}(a, \varepsilon) \ne \varnothing となります。
よって点列  (a_n)_{n \in \mathbb{N}} を任意の  n \in \mathbb{N} に対して  a_n \in f(A) \cap U_\mathbb{R}(a, \cfrac{1}{n}) となるように定義することができます。
 (a_n)_{n \in \mathbb{N}}  \mathbb{R} {\lim}_\mathbb{R} (a_n)_{n \in \mathbb{N}} = a となります。
 f(A) は点列コンパクトであるので  (a_n)_{n \in \mathbb{N}} の部分列  (b_n)_{n \in \mathbb{N}} が存在して  {\lim}_\mathbb{R} (b_n)_{n \in \mathbb{N}} = b となる  b \in f(A) が存在します。 a = b となるので  a f(A) の最大値となります。
同様に最小値も存在します。 [証明終わり]

代数学の基本定理(1)証明(1) の残り

連続写像  f: \mathbb{C} \to \mathbb{R} に対して

  • 任意の実数  r に対して実数  \delta \gt 0 が存在して

が成り立つとします。このとき  f(\mathbb{C}) の最小値が存在します。

[証明]  r \in f(\mathbb{C}) をとります。実数  \delta \gt 0 が存在して

となります。

 X = \{ z \in \mathbb{C} \ | \ |z| \le \delta \} 有界閉集合なので点列コンパクトとなります。

 f は連続なので  f(\mathbb{C}) は点列コンパクトとなります。

 f(X) の最小値  a \in f(X) が存在します。 a f(\mathbb{C}) の最小値となります。 [証明終わり]

*1:一樂 重雄 (監修)『新版 集合と位相 そのまま使える答えの書き方 (KS理工学専門書)』,出版社: 講談社,ISBN-10: 4061565575,ISBN-13: 978-4061565579,発売日: 2016/5/24