エレファント・ビジュアライザー調査記録

ビジュアルプログラミングで数式の変形を表すことを考えていくブロクです。

群論の計算(18)

ここでは複素数の説明のために体上の多項式の説明をします。
(『可換環論の勘どころ (数学のかんどころ)』*1 を参考にしています)

ここでは、自明ではない単位元を持つ可換環のことを単に環ということにします。

体上の多項式環(1)

環上の多項式環のところでも説明しましたが、ここでも説明しておきます。

多項式の構成

 K を体とします。 K の元の有限個の列全体の集合を  P とおきます。 P に二項演算、加法  +: P \times P \to P と乗法  \cdot: P \times P \to P ( x \cdot y xy と書くこともあります)を

  •  (a_0, a_1, a_2, \cdots ) + (b_0, b_1, b_2, \cdots ) = (a_0+b_0, a_1+b_1, a_2+b_2, \cdots )
  •  (a_0, a_1, a_2, \cdots )   (b_0, b_1, b_2, \cdots ) = (c_0, c_1, c_2, \cdots )

と定義すると、 P は環となります。ここで  c_n = a_0 b_n + a_1 b_{n-1} + \cdots + a_{n-1} b_1 + a_n b_0 とします。

 P の元  (a_0, a_1, a_2, \cdots ) をある文字  X を使って

  •  a_0 + a_1 X + a_2 X^2 + \cdots

のように書きます。 a_0, a_1, a_2, \cdots のところを係数と呼びます。係数が  0 のところは書かなくても良いとすると有限の列で書くことができます。これを  K に係数を持つ不定 X に関する多項式と呼びます。この形に書いた多項式全体の集合を  K[X] と書きます。

 \eta : K \to K[X]  \eta (a) = (a, 0, 0, \cdots ) とすると、 \eta単射の環の準同型となります。 \eta によって  K \subseteq K[X] とみなすことができます。

 a_n \ne 0 である最大の  n をこの多項式の次数と呼びます。 f \ne 0 のとき  f \in K[X] の次数を  \deg fと書きます。 f = 0 のときは次数は定義しません。

 R が任意の  x, y \in R に対して  xy = 0 ならば  x = 0 または  y = 0 であるとき  R を整域と呼びます。

 f = a_m X^m + a_{m-1} X^{m-1} + \cdots + a_1 X + a_0 g = b_n X^n + b_{n-1} X^{n-1} + \cdots + b_1 X + b_0 K [ X ] の元、 f \ne 0 g \ne 0 a_m \ne 0 b_n \ne 0 とします。 fg = a_m b_n X^{m+n} + \cdots となって  fg \ne 0 となります。よって  K [ X ] は整域となります。この議論は  K が整域であれば成立するので以下のことが成り立ちます。

 R が整域ならば  R [ X ] は整域となります。

 X_1, X_2, \cdots , X_n不定元とする整域  R 上の多項式環  R [ X_1, X_2, \cdots , X_n ]
 R [ X_1, X_2, \cdots , X_n ] = R [ X_1, X_2, \cdots , X_{n-1} ] [ X_n ]
帰納的に定義します。 R [ X_1, X_2, \cdots , X_n ] は整域となります。

この商体  \operatorname{Frac} ( R [ X_1, X_2, \cdots , X_n ] ) を有理関数体を呼び  R ( X_1, X_2, \cdots , X_n ) と表します。

体上の代数

 K を体とします。環  A に対して環の準同型  \psi: K \to A があるとき  A K 上の代数(可換な結合的代数を単に代数と呼ぶことにします)と呼びます( \psi(r)x ry と書きます)。

 A の加法だけを考えると  A K 上のベクトル空間となります。

体上の多項式環は体上の代数となるので、ベクトル空間となります。

ユークリッドの互除法

 f = a_m X^m + a_{m-1} X^{m-1} + \cdots + a_1 X + a_0 g = b_n X^n + b_{n-1} X^{n-1} + \cdots + b_1 X + b_0 K [ X ] の元、 g \ne 0 a_m \ne 0 b_n \ne 0 m \ge n とします。

 \begin{eqnarray*}
h & = & f - \cfrac{a_m}{b_n} X^{m-n} g \\
 & = & \left( a_{m-1} - \cfrac{a_m}{b_n} b_{n-1} \right) X^{m-1} + \cdots + \left( a_{1} - \cfrac{a_m}{b_n} b_{n-m+1} \right) X + \left( a_{0} - \cfrac{a_m}{b_n} b_{n-m} \right)
\end{eqnarray*}
の次数は  m より小さくなります( i \lt 0 のときは  b_i = 0 とします)。これを次数が  n 以上である間繰り返すと、 f = gq + r であり、 r の次数は  n 未満となる多項式  q r が得られます。この  q q(f,g) r r(f,g) と書くことにします。 \deg f \lt \deg g のときは  q(f,g) = 0 r(f,g) = f とします。このようにすると  g \ne 0 のとき  q(f,g) r(f,g) が決まります。

これを繰り返して  f_0 = f, f_1 = g, f_2 = r(f_0, f_1), f_3 = r(f_1, f_2), \cdots , f_{k+2} = r(f_{k}, f_{k+1}), \cdots という多項式の列を作ることができます。 \deg f_1 \gt \deg f_2 \gt \cdots が成り立っているのでこの列は  f_k = 0 または  \deg f_k = 0 となるまで作ることができます。この手順をユークリッドの互除法と呼びます。

整域  R の任意のイデアル  I に対して  I = Rx となる  x \in R が存在するとき、 R を単項イデアル整域と呼びます。

 I K [ X ] イデアル I \ne \{ 0 \} とします。 f \in I f \ne 0 \deg f が最小となる  I の元とします。 g \ne 0 である  g \in I をとると  \deg g \ge \deg f であるから  r = r(g, f) が存在します。 r = 0 または  \deg r \lt \deg f が成り立ちますが  \deg f は最小なので  r = 0 となります。よって  g = fq(g,f) となり  I = K [ X ] f = \{ hf \ | \ h \in K [ X ] \} となります。よって  K [ X ] は単項イデアル整域となります。

代入原理

 R S を環、 \psi : R \to S を環の準同型とします。
このとき任意の  s \in S に対して環の準同型  \sigma_s : R [ X ] \to S

  • 任意の  a \in R に対して  \sigma_s (a) = \psi(a)
  •  \sigma_s (X) = s

を満たすものが一意的に存在します。

[証明]  R [ X ] の元  f = a_n X^n + a_{n-1} X^{n-1} + \cdots + a_1 X + a_0 に対して
 \sigma_s(f) = \psi(a_n) s^n + \psi(a_{n-1}) s^{n-1} + \cdots + \psi(a_1) s + \psi(a_0)
と定義することができて、任意の  f, g \in R [ X ] に対して  \sigma_s(f+g) = \sigma_s(f) + \sigma_s(g) \sigma_s(fg) = \sigma_s(f) \sigma_s(g) \sigma_s(0) = 0 \sigma_s(1) = 1 が成り立つので  \sigma_s は環の準同型となります。 \sigma_s に対して

  • 任意の  a \in R に対して  \sigma_s (a) = \psi(a)
  •  \sigma_s (X) = s

が成り立ちます。逆に環の準同型  \mu : R [ X ] \to S が上の条件を満たすならば
 \mu(f) = \psi(a_n) s^n + \psi(a_{n-1}) s^{n-1} + \cdots + \psi(a_1) s + \psi(a_0)
となって  \sigma_s と一致します。 [証明終わり]

 \psi が恒等写像のとき  a \in R f \in R [ X ] に対して  \sigma_a(f) f(a) と表します。

 R [ X_1, X_2, \cdots , X_n ] の場合にも以下のことが成り立ちます。

 R S を環、 \psi : R \to S を環の準同型とします。
このとき任意の  s_1, s_2, \cdots , s_n \in S に対して環の準同型  \sigma : R [ X_1, X_2, \cdots , X_n ] \to S

  • 任意の  a \in R に対して  \sigma (a) = \psi(a)
  •  \sigma (X_i) = s_i \ (i = 1, 2, \cdots n )

を満たすものが一意的に存在します。

 \psi が恒等写像のとき  a_1, a_2, \cdots , a_n \in R f \in R [ X_1, X_2, \cdots , X_n ] に対して  \sigma(f) f(a_1, a_2, \cdots , a_n) と表します。

 K を体、 f \in K [X]  a \in K g = X - a とします。 q = q(f,g) r = r(f,g) とおくと  f = gq + r \deg r \lt \deg g = 1 または  r = 0 となります。 g(a) = a - a = 0 となるので  f(a) = g(a)q(a) + r = r となります(剰余の定理)。

 f \in K [ X ] g とすると  q = q(f,g) r = r(f,g) は一意的に決まるので  f(a) = g(a)q(a) = 0 となります。逆に  f(a) = 0 とすると  f = gq \in K [ X ] g となります(因数定理)。

可換環論の勘どころ (数学のかんどころ)

可換環論の勘どころ (数学のかんどころ)

*1:後藤 四郎『可換環論の勘どころ (数学のかんどころ)』,出版社: 共立出版, ISBN-10: 4320110730, ISBN-13: 978-4320110731,発売日: 2017/8/10