体上の多項式環(3)
整域
を自明ではない単位元を持つ可換環とします(以下、環というときは自明ではない単位元を持つ可換環を指すものとします)。
任意の に対して ならば または であるとき、 を整域と呼びます。
体は整域となります。
整数全体からなる環 は整域となります。
が整域であるとき、 上の多項式環 は整域となります。
ユークリッド整域
を整域とします。以下の条件を満たす が存在するとき をユークリッド整域と呼びます。
- 任意の に対して、 ならば以下の条件を満たす が存在する。
- または
整数全体からなる環 は、 の絶対値を の絶対値で割った商を 、余りを 、 を の絶対値とすることによりユークリッド整域となります。
単項イデアル整域 (principal ideal domain, PID)
を整域とします。 の任意のイデアルが単項イデアル( となる が存在するようなイデアル )であるとき、 を単項イデアル整域と呼びます。
証明は体上の多項式環の場合と同様です。
[証明] を のイデアルで とします。 を で が最小となる の元とします。 をとると であって、 または となる が存在します。 は最小なので となります。よって となり となります。よって は単項イデアル整域となります。[証明終わり]
環 のイデアル は
- 任意のイデアル に対して、 ならば または
(条件1)
を満たすとき素イデアルと呼びます。ここでは環は(自明ではない単位元を持つ)可換環としているので以下の条件と同値となります。
- 任意の に対して、 ならば または (条件2)
[証明] (条件1条件2) 、 とすると、 は可換環であることから となります。 となり (条件1) より または となります。よって または となって (条件2) が成り立ちます。
(条件2条件1) 、、、 とすると、 となって (条件2) より または となります。 とすると が存在します。任意の に対して または となるのですが であるので となります。よって となって (条件1) が成り立ちます。[証明終わり]
環 の素イデアル全体の集合を と表します。
を環 の素イデアルとすると、 は整域となります。
環 の元 は であって が の素イデアルであるとき の素元と呼びます。
素数 は整数環 の素元となります。 は の素イデアルとなります。
環 のイデアル は
- 任意のイデアル に対して、 ならば または
を満たすとき極大イデアルと呼びます。
を環 の極大イデアルとすると、 は体となります。
環 のイデアル を と表します。
単項イデアル整域の ではない素イデアルは極大イデアルとなります。
[証明] を単項イデアル整域 のイデアルで として、 を のイデアルで であるものとします。 のイデアルは単項生成なので 、 となる が存在します。 となり となる が存在します。 は素イデアルなので または となります。 ならば となります。 ならば となる が存在するので となって となります。[証明終わり]
は体となります。
一意分解整域 (unique factorization domain, UFD)
を整域とします。
は となる が存在するとき の単元と呼びます。
は であって以下の条件を満たすとき の既約元と呼びます。
- は の単元ではない
- 任意の に対して ならば が の単元であるかまたは が の単元である
素元は既約元となります。
[証明] を の素元とします。 は の素イデアルとなります。素イデアルの定義より は の単元ではありません。、 とします。 は の素イデアルであるから または となります。 ならば となる が存在するので となって は の単元となります。同様に ならば は の単元となります。[証明終わり]
とし、、 を の素元とします。 ならば であり、適当に並べ替えると任意の に対して となります。
[証明] 、 は の既約元となります。
のときは となります。 は の既約元なので となる が存在して、その他の はすべて単元となりますが、 は既約元なので単元となることはありません。よって であり となります。
として、 より小さい場合は主張が成り立っているとします。 であり は素イデアルであるから となる が存在します。番号を付け替えてこの を とします。
となる が存在します。 は既約元なので は単元となります。 となるので となります。 は整域なので となります。 は単元なので帰納法の仮定より であり、適当に並べ替えると任意の に対して となります。したがって主張が成り立ちます。[証明終わり]
整域 の でも単元でもない任意の元 に対して素元 が存在して
と表すことができる(これを素元分解と呼びます)とき を一意分解整域と呼びます。
一意分解整域の既約元は素元となります。
[証明] を一意分解整域、 を既約元とします。素元 が存在して と表すことができます。 は既約元なのである1つの 以外の は単元となります。よってある単元 が存在して となり、 となるので は素元となります。[証明終わり]
上に示した命題により整域 が一意分解整域であることは以下の条件と同値となります。
整域 の でも単元でもない任意の元 に対して既約元 が存在して
と表すことができ、その表示が一意的となる。表示が一意的であるとは既約元 が存在して
と表されるならば、 であり、適当に並べ替えると任意の に対して となることを言う。
単項イデアル整域は一意分解整域となります。
[証明] を単項イデアル整域とします。
の単元全体の集合を とおきます。 ならば となります。、 が既約元ならば は既約元となります。 ならば となる が存在します。
の既約元の1個以上の有限個の積全体の集合を とおきます。すなわち とおきます。 とおくと は のイデアルとなります。 は単項イデアル整域なので となる が存在します。 となる が存在します。 となります。
とすると、 となります。 とすると、 となります。どちらも に反します。
よって となります。 とすると は既約元ではないので、 であって、、 となる が存在します。 とすると、 となる が存在します。、 となって に反するので となります。よって とすると、 となって に反するので となります。同様に となります。よって となって であることに矛盾します。
よって となって となり主張が成り立ちます。[証明終わり]