エレファント・コンピューティング調査報告

極限に関する順序を論理プログラミングの手法を使って指定することを目指すブロクです。

群論の計算(20)

体上の多項式環(3)

整域

 R を自明ではない単位元を持つ可換環とします(以下、環というときは自明ではない単位元を持つ可換環を指すものとします)。

任意の  x, y \in R に対して  xy = 0 ならば  x = 0 または  y = 0 であるとき、 R を整域と呼びます。

体は整域となります。

整数全体からなる環  \mathbb{Z} は整域となります。

 R が整域であるとき、 R 上の多項式環  R[X_1, X_2, \cdots , X_n] は整域となります。

ユークリッド整域

 R を整域とします。以下の条件を満たす  f: R \setminus \{ 0 \} \to \mathbb{N} が存在するとき  Rユークリッド整域と呼びます。

  • 任意の  a, b \in R に対して、 b \ne 0 ならば以下の条件を満たす  q, r \in R が存在する。
    •  a = bq + r
    •  r = 0 または  f(r) \lt f(b)

整数全体からなる環  \mathbb{Z} は、 a の絶対値を  b の絶対値で割った商を  q、余りを  r f(x) x の絶対値とすることによりユークリッド整域となります。

 K 上の多項式環  K[X] は、 a b で割った商を  q、余りを  r f(x) \deg x とすることによりユークリッド整域となります。

単項イデアル整域 (principal ideal domain, PID)

 R を整域とします。 R の任意のイデアルが単項イデアル( I = Ra となる  a \in R が存在するようなイデアル  I)であるとき、 R を単項イデアル整域と呼びます。

ユークリッド整域は単項イデアル整域となります。

証明は体上の多項式環の場合と同様です。
[証明]  I R イデアル I \ne \{ 0 \} とします。 a \in I a \ne 0 f(a) が最小となる  I の元とします。 b \in I をとると  b = aq + r であって、 r = 0 または  f(r) \lt f(a)となる  q, r \in R が存在します。 f(a) は最小なので  r = 0 となります。よって  b = aq となり  I = Ra となります。よって  R は単項イデアル整域となります。[証明終わり]

 Rイデアル  P

 \ \ \cdots(条件1)
を満たすとき素イデアルと呼びます。ここでは環は(自明ではない単位元を持つ)可換環としているので以下の条件と同値となります。

  •  P \ne R
  • 任意の  a, b \in R に対して、 ab \in P ならば  a \in P または  b \in P  \ \ \cdots(条件2)

[証明] (条件1 \implies条件2)  a, b \in R ab \in P とすると、 R可換環であることから  (a)(b) = (ab) となります。 (a)(b) = (ab) \subseteq P となり (条件1) より  (a) \subseteq P または  (b) \subseteq P となります。よって  a \in P または  b \in P となって (条件2) が成り立ちます。

(条件2 \implies条件1)  A, B \subseteq R AB \subseteq P a \in A b \in B とすると、 ab \in AB \subseteq P となって (条件2) より  a \in P または  b \in P となります。 A \not \subseteq P とすると  a \in A \setminus P が存在します。任意の  b \in P に対して  a \in P または  b \in P となるのですが  a \not \in P であるので  b \in P となります。よって  B \subseteq P となって (条件1) が成り立ちます。[証明終わり]

 R の素イデアル全体の集合を   \operatorname {Spec} (R) と表します。

 P を環  R の素イデアルとすると、 R/P は整域となります。

 R の元  a a \ne 0 であって  (a) R の素イデアルであるとき  R の素元と呼びます。

素数  p は整数環  \mathbb{Z} の素元となります。 (p) = p \mathbb{Z} = \{ p a \ | \ a \in \mathbb{Z} \}  \mathbb{Z} の素イデアルとなります。

 Rイデアル  M

を満たすとき極大イデアルと呼びます。

 M を環  R の極大イデアルとすると、 R/M は体となります。

 Rイデアル  \{ 0 \}  0 と表します。

単項イデアル整域の  0 ではない素イデアルは極大イデアルとなります。

[証明]  P を単項イデアル整域  Rイデアル P \ne \{0\}として、 A Rイデアル P \subseteq A であるものとします。 Rイデアルは単項生成なので  P = (p) A = (a) となる  p, a \in R が存在します。 (p) \subseteq (a) となり  p = ab となる  b \in R が存在します。 P = (p) は素イデアルなので  a \in P または  b \in P となります。 a \in P ならば  P = A となります。 b \in P ならば  b = pc となる  c \in R が存在するので  p = apc となって  A = (a) \supseteq (ac) = (1) = R となります。[証明終わり]

 \mathbb{Z} / p \mathbb{Z} は体となります。

一意分解整域 (unique factorization domain, UFD)

 R を整域とします。

 a \in R ab = 1 となる  b \in R が存在するとき  R の単元と呼びます。

 a \in R a \ne 0 であって以下の条件を満たすとき  R の既約元と呼びます。

  •  a R の単元ではない
  • 任意の  b, c \in R に対して  a = bc ならば  b R の単元であるかまたは  c R の単元である

環上の多項式環の既約多項式は既約元となります。

素元は既約元となります。

[証明]  a \in R R の素元とします。 (a) R の素イデアルとなります。素イデアルの定義より  a R の単元ではありません。 a = bc b, c \in R とします。 (a) R の素イデアルであるから  b \in (a) または  c \in (a) となります。 b \in (a) = (bc) ならば  b = bcx となる  x \in R が存在するので  1 = cx となって  c R の単元となります。同様に  c \in (a) ならば  b R の単元となります。[証明終わり]

 n, m \ge 1 とし、 p_1, p_2, \cdots , p_n q_1, q_2, \cdots , q_m R の素元とします。 p_1 p_2 \cdots p_n = q_1 q_2 \cdots q_m ならば  n = m であり、適当に並べ替えると任意の  1 \le i \le n に対して  (p_i) = (q_i) となります。

[証明]  p_1, p_2, \cdots , p_n q_1, q_2, \cdots , q_m R の既約元となります。

 n = 1 のときは  p_1 = q_1 q_2 \cdots q_m となります。 p_1 R の既約元なので  (p_1) = (q_i) となる  i が存在して、その他の  q_j はすべて単元となりますが、 q_j は既約元なので単元となることはありません。よって  m = 1 であり  (p_1) = (q_1) となります。

 n \gt 1 として、 n より小さい場合は主張が成り立っているとします。 (p_1) \supseteq (p_1 p_2 \cdots p_n) \ni q_1 q_2 \cdots q_m であり  (p_1) は素イデアルであるから  (p_1) \ni q_i となる  i が存在します。番号を付け替えてこの  q_i q_1 とします。

 a p_1 = q_1 となる  a \in R が存在します。 q_1 は既約元なので  a は単元となります。 a p_1 p_2 \cdots p_n = a q_1 q_2 \cdots q_m となるので  q_1 p_2 \cdots p_n = a q_1 q_2 \cdots q_m となります。 R は整域なので  p_2 \cdots p_n = a q_2 \cdots q_m となります。 a は単元なので帰納法の仮定より  n = m であり、適当に並べ替えると任意の  2 \le i \le n に対して  (p_i) = (q_i) となります。したがって主張が成り立ちます。[証明終わり]

整域  R 0 でも単元でもない任意の元  a に対して素元  p_1, p_2, \cdots , p_n \in R \ (n \ge 1) が存在して

  •  a = p_1 p_2 \cdots p_n

と表すことができる(これを素元分解と呼びます)とき  R を一意分解整域と呼びます。

一意分解整域の既約元は素元となります。

[証明]  R を一意分解整域、 a \in R を既約元とします。素元  p_1, p_2, \cdots , p_n \in R \ (n \ge 1) が存在して  a = p_1 p_2 \cdots p_n と表すことができます。 a は既約元なのである1つの  p_i 以外の  p_j は単元となります。よってある単元  b が存在して  a = b p_i となり、 (a) = (p_i) となるので  a は素元となります。[証明終わり]

上に示した命題により整域  R が一意分解整域であることは以下の条件と同値となります。

整域  R 0 でも単元でもない任意の元  a に対して既約元  p_1, p_2, \cdots , p_n \in R \ (n \ge 1) が存在して

  •  a = p_1 p_2 \cdots p_n

と表すことができ、その表示が一意的となる。表示が一意的であるとは既約元  q_1, q_2, \cdots , q_m \in R \ (m \ge 1) が存在して

  •  a = q_1 q_2 \cdots q_m

と表されるならば、 n = m であり、適当に並べ替えると任意の  1 \le i \le n に対して  (p_i) = (q_i) となることを言う。

単項イデアル整域は一意分解整域となります。

[証明]  R を単項イデアル整域とします。

 R の単元全体の集合を  R^\times とおきます。 u, v \in R^\times ならば  uv \in R^\times となります。 u \in R^\times p が既約元ならば  up は既約元となります。 (a) = (b) ならば  a = ub となる  u \in R^\times が存在します。

 R の既約元の1個以上の有限個の積全体の集合を  P とおきます。すなわち  P = \{ p_1 p_2 \cdots p_n \ | \ p_1, p_2, \cdots , p_n \in R, p_1, p_2, \cdots , p_n は既約元 , n \ge 1 \} とおきます。 \displaystyle I = \bigcup_{x \in R \setminus (P \cup R^\times) } (x) とおくと  I Rイデアルとなります。 R は単項イデアル整域なので  I = (a) となる  a \in R が存在します。 a \in (x) となる  x \in R \setminus (P \cup R^\times) が存在します。 (a) = (x) となります。

 a \in R^\times とすると、 x \in R^\times となります。 a \in P とすると、 x \in P となります。どちらも  x \notin P \cup R^\times に反します。

よって  a \notin P \cup R^\times となります。 a \ne 0 とすると  a は既約元ではないので、 a = bc であって、 b \notin R^\times c \notin R^\times となる  b, c \in R が存在します。 (a) = (b) とすると、 a = ub となる  u \in R^\times が存在します。 ub = bc c = u \in R^\times となって  c \notin R^\times に反するので  (a) \ne (b) となります。よって  b \notin P とすると、 b \in (a) となって  (a) = (bc) \subseteq (b) に反するので  b \in P となります。同様に  c \in P となります。よって  a = bc \in P となって  a \notin P であることに矛盾します。

よって  a = 0 となって  R = P \cup R^\times \cup 0 となり主張が成り立ちます。[証明終わり]