正規拡大・原始元の存在定理
ここでいったん正規拡大などの議論を考え直してみます。『現代代数学』*1、『代数学』*2 を参考にしています。復刊版があるようです。
(現代代数学) 定理 30.6
を半群 から体 の乗法群への相異なる準同型とします。このとき ()であるなら が成立します。
[証明] を半群 から体 の乗法群への異なる半群の準同型、 とし とします。 とおきます。
に関する帰納法によります。 のときは(示すべきことがないので)成り立っています。 のときは となり をとると となり、 なので となって成り立ちます。
とし のときは成り立っていると仮定します。任意の に対して以下のことが成り立ちます。
より
より
より
より
これは任意の に対して成り立っているので
が成り立ちます。
帰納法の仮定より のときは成り立っているので任意の に対して
となります。
と () は異なる指標なので となる が存在します。 なので となります。これはすべての に対して成り立つので となります。
となって のときの議論により となります。[証明終わり]
系 30.7
を体 から体 への相異なる同型とします。このとき ()であるなら が成立します。
命題 30.8
を 次の拡大、 を の拡大体とします。このとき を拡張する同型 の個数は 以下となります。
[証明] 個の拡張 があるとします。 の 上の基底 について連立一次方程式
()
は変数の個数が方程式の個数より大きいから
()
を満たす解 が存在します。 の任意の元 は () の形に表され、 だから
()
となって系 30.7 に矛盾となります。[証明終わり]
定義(正規拡大)
体の代数拡大 は、以下の同値な条件を満たすとき正規拡大と呼びます。 を の を含む代数的閉包とします。
定理 30.9
を体 の自己同型のつくる有限群、その位数を とし、 とおきます。このとき は の部分体となって、 は 次の正規拡大であり、 は の -自己同型の全体となります。
[証明] が の部分体となることは明らか。
の元を とします。これらは 個の相異なる -自己同型 となるので命題 30.8 により となります。
として の元 が 上1次独立であるとします。命題 30.8 の証明と同様の論法で
()
を満たす解 が存在します。
このような解のうち である の数 が最小のものを、番号をつけ直して
(*) ()
であるとします。 となります。 をかけて最後の を にすることができます。
で は 上1次独立だから がすべて に属することはありません。 とします。そのとき の定義から となる が存在します。
(*) に を作用させると
()
となります。
一方 (*) は任意の で成り立つから、とくに を入れれば
()
となります。
この2式の差をつくれば により
()
となります。
の全体 () は に一致し、 であるから、これははじめの解 {} よりも短い解を与えることになり、矛盾となります。よって となります。
命題 30.8 により、 から への -同型の個数は高々 個でなければならず、 がすでに 個を与えているから、 がその全体となります。すると命題30.2 の b) (正規拡大の同値条件)により、 は正規拡大となります。[証明終わり]
定理 31.16
有限次分離拡大は単純拡大となります。
[証明] 基礎体 が有限体の場合は有限体の構造論からわかります。
が無限個の元を持つとします。 に2元を添加した場合が単純拡大であることを示せば、一般の場合は帰納法によって示すことができます。
を の分離拡大とします。 を -同型 の全体とします。 となります。
もし かつ とすれば と は と に対して同じ作用となり、従って 全体で一致します。 は無限個の元を持つので () を満たす が存在します。
そのとき とおけば のとき
これは が少なくとも 個の共役元をもつことを示し、 となります。よって となります。[証明終わり]
定義(基本対称式)
多項式
の係数 を第 基本対称式と呼びます。
命題 33.10
任意の対称式は基本対称式の有理式として表さます。有理式体 は対称式体のガロア拡大で、そのガロア群は となります。
[証明] 変数有理式体 に対称群 を によって作用させれば、自己同型群をなし、その不変体 が対称式全体のつくる部分体となります。
体 は体 における分離的多項式
の最小分解体なので はガロア拡大であり、そのガロア群は の置換からなるが、 だからガロア群は で となります。[証明終わり]
(代数学) 例題 29.3
代数拡大 が単純拡大であることと の中間体の個数が有限であることは同値となります。
[証明] 、 を の 上の最小多項式とします。 を中間体とします。、 を の 上の最小多項式とします。
は の因子となります。 ()とし とおくと となります。 は の 上の最小多項式となります。 となるので となります。よって中間体 の個数は の因子で最高次係数 のものの個数以下であり、有限となります。
逆に中間体の個数を有限とすると、 は から有限回の添加によって得られるから となります。
よって が有限体ならば も有限体であり、有限体の性質から が単純拡大であることがわかります。
が無限体の場合 , を の任意の元とすると、体 () のうち相異なるものは有限個であるから、ある について が成り立ちます。
この体は を含んでいます。従って を含み、さらに も含みます。よって となります。
は に有限個の元を添加して得られるのであるから、帰納法により が の単純拡大となることがわかります。[証明終わり]
- 作者:服部 昭
- 発売日: 2004/04/01
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- 作者:汎, 永尾
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