「群論の計算(20) - エレファント・コンピューティング調査報告」でも書いているのですが、整数の素数の説明を書くために、素イデアル、素元、既約元などの説明をまた書いておきます。
整域
を単位元を持つ自明ではない可換環とします。任意の に対して ならば または であるとき、 を整域と呼びます。体は整域となります。整数全体からなる環 は整域となります。 が整域であるとき、 上の多項式環 は整域となります。
ユークリッド整域
を整域とします。以下の条件を満たす が存在するとき をユークリッド整域と呼びます。
- 任意の に対して、 ならば以下の条件を満たす が存在する。
- または
整数全体からなる環 は、 の絶対値を の絶対値で割った商を 、余りを 、 を の絶対値とすることによりユークリッド整域となります。体 上の多項式環 は、 を で割った商を 、余りを 、 を とすることによりユークリッド整域となります。
素イデアル
単位元を持つ自明ではない可換環 の元 で生成されるイデアル を と書きます。また、元 で生成されるイデアル を と書きます。
- 任意のイデアル に対して、 ならば または
を満たすとき素イデアルと呼びます。
既約元
を整域とします。
は となる が存在するとき の単元と呼びます。 の単元全体の集合を と書きます。
は であって以下の条件を満たすとき の既約元と呼びます。
- は の単元ではない
- 任意の に対して ならば が の単元であるかまたは が の単元である
素数 は整数環 の既約元となります。
単位元を持つ自明ではない可換環上の多項式環の既約多項式は既約元となります。
素元は既約元となります。
[証明] を の素元とします。 は の素イデアルとなります。素イデアルの定義より は の単元ではありません。、 とします。 は の素イデアルであるから または となります。 ならば となる が存在するので となって は の単元となります。同様に ならば は の単元となります。[証明終わり]
とし、、 を の素元とします。 ならば であり、適当に並べ替えると任意の に対して となります。
[証明] 、 は の既約元となります。
のときは となります。 は の既約元なので となる が存在して、その他の はすべて単元となりますが、 は既約元なので単元となることはありません。よって であり となります。
として、 より小さい場合は主張が成り立っているとします。 であり は素イデアルであるから となる が存在します。番号を付け替えてこの を とします。
となる が存在します。 は既約元なので は単元となります。 となるので となります。 は整域なので となります。 は単元なので帰納法の仮定より であり、適当に並べ替えると任意の に対して となります。したがって主張が成り立ちます。[証明終わり]
一意分解整域
整域 の でも単元でもない任意の元 に対して素元 が存在して
と表すことができる(これを素元分解と呼びます)とき を一意分解整域と呼びます。
一意分解整域の既約元は素元となります。
[証明] を一意分解整域、 を既約元とします。素元 が存在して と表すことができます。 は既約元なのである1つの 以外の は単元となります。よってある単元 が存在して となり、 となるので は素元となります。[証明終わり]
上に示した命題により整域 が一意分解整域であることは以下の条件と同値となります。
整域 の でも単元でもない任意の元 に対して既約元 が存在して
と表すことができ、その表示が一意的となる。表示が一意的であるとは既約元 が存在して
と表されるならば、 であり、適当に並べ替えると任意の に対して となることを言う。
単項イデアル整域は一意分解整域となります。
[証明] を単項イデアル整域とします。
ならば となります。、 が既約元ならば は既約元となります。 ならば となる が存在します。
の既約元の1個以上の有限個の積全体の集合を とおきます。すなわち とおきます。 とおくと は のイデアルとなります。 は単項イデアル整域なので となる が存在します。 となる が存在します。 となります。
とすると、 となります。 とすると、 となります。どちらも に反します。
よって となります。 とすると は既約元ではないので、 であって、、 となる が存在します。 とすると、 となる が存在します。、 となって に反するので となります。よって とすると、 となって に反するので となります。同様に となります。よって となって であることに矛盾します。
よって となって となり主張が成り立ちます。[証明終わり]
- 作者:四郎, 後藤
- 発売日: 2017/08/10
- メディア: 単行本