随伴(2) 積関手と冪関手
自由マグマと自由モノイドの関係を使って、随伴(の一部)を説明することができると思ったのですが、まだできていないし、随伴の全体を説明することは難しいと思われるので、また「圏論の道案内 ~矢印でえがく数学の世界~」の「第8章 随伴 ①積と冪との間の関係」に従って説明していくことにします。
これ以降この本では可換モノイド、半環、行列などの話題が現れないようですが、これらについても調査していく予定です。
積関手
積を持つ圏 の対象
に対して
- 任意の対象
に対して対象
- 任意の射
に対して射
を対応させるものは関手となります。この関手を から
への積関手
と呼びます。
冪関手
積および冪を持つ圏 において、対象
に対して評価射
は、任意の射
に対して 射
で(可換図式1)
\begin{CD}
A \times Y @> h >> X \\
@V 1_A \times \tilde{h} VV @VV 1_X V \\
A \times X^A @>> \varepsilon_X > X
\end{CD} を可換にするものが一意的に存在するものとなります。 を
のカリー化または転置と呼び、ここでは
と書きます。
射 に対して、冪の普遍性(可換図式1)より
で(可換図式2) \begin{CD}
A \times X^A @> \varepsilon_X >> X \\
@V 1_A \times u VV @VV f V \\
A \times Y^A @>> \varepsilon_Y > Y
\end{CD} を可換にするものが一意的に存在します。
この を
と書くと、冪を持つ圏
の対象
に対して
- 任意の対象
に対して対象
- 任意の射
に対して射
を対応させるものは関手となります。この関手を から
への関手(冪関手)
と呼びます。
積関手と冪関手の関係 (
)
積関手を 、冪関手を
とすると、(可換図式2)は(可換図式3) \begin{CD}
F_A G_A (X) @> \varepsilon_X >> X \\
@V F_A G_A (f) VV @VV f V \\
F_A G_A (Y) @>> \varepsilon_Y > Y \\
\end{CD} となって、自然変換 を表すものとなります。
積関手と冪関手の関係 (
)
対象 と
に対して冪の普遍性(可換図式1)より(可換図式4) \begin{CD}
A \times X @> 1_A \times 1_X >> A \times X \\
@V 1_A \times η_X VV @VV 1_A \times 1_X V \\
A \times (A \times X)^A @>> \varepsilon_{A \times X} > A \times X
\end{CD} を可換にする が一意的に存在します(
)。
のカリー化
(
)が一意的に存在して(可換図式5) \begin{CD}
A \times X @> 1_A \times f >> A \times Y \\
@V 1_A \times g VV @VV 1_A \times 1_Y V \\
A \times (A \times Y)^A @>> \varepsilon_{A \times Y} > A \times Y
\end{CD} を可換にします。
以下の図式が可換図式となることを見ていきます。(図式6) \begin{CD}
X @> η_X >> (A \times X)^A \\
@V f VV @VV (1_A \times f)^A V \\
Y @>> η_Y > (A \times Y)^A \\
\end{CD}
(可換図式4)より以下の図式(可換図式7) \begin{CD}
A \times X @> 1_A \times f >> A \times Y \\
@V 1_A \times f VV @VV 1_A \times 1_Y V \\
A \times Y @> 1_A \times 1_Y >> A \times Y \\
@V 1_A \times η_Y VV @VV 1_A \times 1_Y V \\
A \times (A \times Y)^A @>> \varepsilon_{A \times Y} > A \times Y
\end{CD} は可換図式となります。(可換図式5)より となります。
(可換図式4)、(可換図式2)より(可換図式8) \begin{CD}
A \times X @> 1_A \times 1_X >> A \times X \\
@V 1_A \times η_X VV @VV 1_A \times 1_X V \\
A \times (A \times X)^A @> \varepsilon_{A \times X} >> A \times X \\
@V 1_A \times (1_A \times f)^A VV @VV 1_A \times f V \\
A \times (A \times Y)^A @>> \varepsilon_{A \times Y} > A \times Y
\end{CD} は可換図式となります。(可換図式5)のより となります。
よって(図式6)は可換図式となり(可換図式9) \begin{CD}
X @> η_X >> G_A F_A(X) \\
@V f VV @VV G_A F_A(f) V \\
Y @>> η_Y > G_A F_A(Y) \\
\end{CD} は可換図式となり、自然変換 を表す可換図式となります。
三角等式
三角等式 (
)
(可換図式4)を 、
を使って描くと(可換図式10) \begin{CD}
F_A(X) @> 1_{F_A(X)} >> F_A(X) \\
@V F_A(η_X) VV @VV 1_{F_A(X)} V \\
F_AG_AF_A(X) @>> \varepsilon_{F_A(X)} > F_A(X)
\end{CD} となります。
三角等式 (
)
(可換図式10)で を
にすると(可換図式11) \begin{CD}
F_AG_A(X) @> 1_{F_AG_A(X)} >> F_AG_A(X) \\
@V F_A(η_{G_A(X)}) VV @VV 1_{F_AG_A(X)} V \\
F_AG_AF_AG_A(X) @>> \varepsilon_{F_AG_A(X)} > F_AG_A(X)
\end{CD} は可換図式となります。
(可換図式3)で を
とすると(可換図式12) \begin{CD}
F_A G_A F_A G_A (X) @> \varepsilon_{F_A G_A (X)} >> F_A G_A (X) \\
@V F_A G_A (\varepsilon_X) VV @VV \varepsilon_X V \\
F_A G_A (X) @>> \varepsilon_X > X \\
\end{CD} は可換図式となります。
(可換図式11)と(可換図式12)より(可換図式13) \begin{CD}
F_AG_A(X) @> 1_{F_AG_A(X)} >> F_AG_A(X) \\
@V F_A(η_{G_A(X)}) VV @VV 1_{F_AG_A(X)} V \\
F_A G_A F_A G_A (X) @> \varepsilon_{F_A G_A (X)} >> F_A G_A (X) \\
@V F_A G_A (\varepsilon_X) VV @VV \varepsilon_X V \\
F_A G_A (X) @>> \varepsilon_X > X \\
\end{CD} は可換図式となって、 となります。
(可換図式3)の を
とすると(可換図式14)
\begin{CD}
F_A G_A (X) @> \varepsilon_X >> X \\
@V F_A(1_{G_A (X)}) VV @VV 1_X V \\
F_A G_A (X) @>> \varepsilon_X > X \\
\end{CD} は可換図式となって、 となります。
よって(可換図式15) \begin{CD}
G_A (X) @> η_{G_A(X)} >> G_A F_A G_A(X) \\
@V 1_{G_A (X)} VV @VV G_A (\varepsilon_X) V \\
G_A (X) @>> 1_{G_A (X)} > G(X) \\
\end{CD} は可換図式となります。
三角等式 (自然変換
)
関手 と自然変換
を合成した自然変換
、
を
成分が
であるものと定義します。\begin{CD}
F_A @> 1_{F_A} >> F_A \\
@V F_Aη VV @| \\
F_AG_AF_A @>> εF_A > F_A
\end{CD} \begin{CD}
G_A @> ηG_A >> G_AF_AG_A \\
@| @VV G_Aε V \\
G_A @>> 1_{G_A} > G_A
\end{CD} は自然変換の可換図式となります。