ユークリッド整域、単項イデアル整域、一意分解整域について「群論の計算(20) - 非専門的シンギュラリティー研究所」に書いていましたが、「証明路」にするためにまとめておきます。この証明の一部は『可換環論の勘どころ (数学のかんどころ 32)』を参考にしています。『代数学2 環と体とガロア理論 第2版』も参考にします。また、一意分解整域の既約元による定義についてもまとめておきます。
定義
を自明ではない単位元を持つ可換環とします。
整域
- 任意の
に対して
ならば
または
であるとき、
を整域と呼びます。
- 体は整域となります。
- 整数全体からなる環
は整域となります。
が整域であるとき、
上の多項式環
は整域となります。
ユークリッド整域
『可換環論の勘どころ (数学のかんどころ 32)』定義 2.55
『代数学2 環と体とガロア理論 第2版』定義 1.11.16
を整域とします。以下の条件を満たす
が存在するとき
をユークリッド整域と呼びます。
- 任意の
に対して、
ならば以下の条件を満たす
が存在する。
または
『可換環論の勘どころ (数学のかんどころ 32)』例 2.56・補題 1.55・補題 2.17
『代数学2 環と体とガロア理論 第2版』命題 1.11.20・命題 1.11.21
- 整数全体からなる環
は、
の絶対値を
の絶対値で割った商を
、余りを
、
を
の絶対値とすることによりユークリッド整域となります。
- 体
上の多項式環
は、
を
で割った商を
、余りを
、
を
とすることによりユークリッド整域となります。
単項イデアル整域 (principal ideal domain, PID)
『可換環論の勘どころ (数学のかんどころ 32)』定理 2.54 の前
『代数学2 環と体とガロア理論 第2版』定義 1.11.15
を整域とします。
の任意のイデアルが単項イデアル(
となる
が存在するようなイデアル
)であるとき、
を単項イデアル整域と呼びます。
素イデアル・極大イデアル
- 環
の素イデアル全体の集合を
と表します。
を環
の素イデアルとすると、
は整域となります。
- 環
の元
は
であって
が
の素イデアルであるとき
の素元と呼びます。
- 素数
は整数環
の素元となります。
は
の素イデアルとなります。
- 環
のイデアル
は
- 任意のイデアル
に対して、
ならば
または
- を満たすとき極大イデアルと呼びます。
- 任意のイデアル
を環
の極大イデアルとすると、
は体となります。
- 環
のイデアル
を
と表します。
は体となります。
既約元
を整域とします。
は
となる
が存在するとき
の単元と呼びます。
は
であって以下の条件を満たすとき
の既約元と呼びます。
は
の単元ではない
- 任意の
に対して
ならば
が
の単元であるかまたは
が
の単元である
- 環上の多項式環の既約多項式は既約元となります。
一意分解整域 (unique factorization domain, UFD)
『可換環論の勘どころ (数学のかんどころ 32)』定義 2.52
『代数学2 環と体とガロア理論 第2版』定義 1.11.12
整域 の
でも単元でもない任意の元
に対して素元
が存在して
と表すことができる(これを素元分解と呼びます)とき を一意分解整域と呼びます。
(1) ユークリッド整域は単項イデアル整域となります。
『可換環論の勘どころ (数学のかんどころ 32)』定理 2.57
『代数学2 環と体とガロア理論 第2版』定理 1.11.17
[証明]
をユークリッド整域、
を
のイデアルで
とします。
を
で
が最小となる
の元とします。
をとると
であって、
または
となる
が存在します。
は最小なので
となります。
よって となり
となります。
よって は単項イデアル整域となります。
[証明終わり]
(2) 整域の素元は既約元となります。
『可換環論の勘どころ (数学のかんどころ 32)』補題 2.50
『代数学2 環と体とガロア理論 第2版』命題 1.11.9
[証明]
を整域、
を
の素元とします。
は
の素イデアルとなります。
素イデアルの定義より は
の単元ではありません。
、
とします。
は
の素イデアルであるから
または
となります。
ならば
となる
が存在するので
となって
は
の単元となります。
同様に ならば
は
の単元となります。
[証明終わり]
(3)
を整域、
とし、
、
を
の素元とすると、
ならば
であり、適当に並べ替えると任意の
に対して
となります。
『可換環論の勘どころ (数学のかんどころ 32)』命題 2.51
『代数学2 環と体とガロア理論 第2版』命題 1.11.11
[証明]
を整域なので(2)より
、
は
の既約元となります。
のときは
となります。
は
の既約元なので
となる
が存在して、その他の
はすべて単元となりますが、
は既約元なので単元となることはありません。
よって であり
となります。
として、
より小さい場合は主張が成り立っているとします。
であり
は素イデアルであるから
となる
が存在します。
番号を付け替えてこの を
とします。
となる
が存在します。
は既約元なので
は単元となります。
となるので
となります。
は整域なので
となります。
は単元なので帰納法の仮定より
であり、適当に並べ替えると任意の
に対して
となります。
したがって主張が成り立ちます。
[証明終わり]
(4) 一意分解整域の既約元は素元となります。
『可換環論の勘どころ (数学のかんどころ 32)』補題 2.53
『代数学2 環と体とガロア理論 第2版』命題 1.11.13
[証明]
を一意分解整域、
を既約元とします。
素元 が存在して
と表すことができます。
は既約元なのである1つの
以外の
は単元となります。
よってある単元 が存在して
となり、
となるので
は素元となります。
[証明終わり]
(5) 単項イデアル整域の既約元は素元となります。
『代数学2 環と体とガロア理論 第2版』定理 1.11.18 の証明を参照
[証明]
を単項イデアル整域、
を既約元とします。
、
、
とします。
(2)より を満たす
が存在します。
であるから
を満たす
が存在します。
は既約元なので
または
とすると
となって
となります。
とすると
となって
となります。
[証明終わり]
(6) 単項イデアル整域は一意分解整域となります。
『可換環論の勘どころ (数学のかんどころ 32)』定理 2.54
『代数学2 環と体とガロア理論 第2版』定理 1.11.18
[証明]
を単項イデアル整域とします。
の単元全体の集合を
とおきます。
ならば
となります。
、
が既約元ならば
は既約元となります。
ならば
となる
が存在します。
の既約元の1個以上の有限個の積全体の集合を
とおきます。
すなわち とおきます。
とおくと
は
のイデアルとなります。
は単項イデアル整域なので
となる
が存在します。
となる
が存在します。
となります。
とすると、
となります。
とすると、
となります。
どちらも に反します。
よって となります。
とすると
は既約元ではないので、
であって、
、
となる
が存在します。
とすると、
となる
が存在します。
、
となって
に反するので
となります。
よって とすると、
となって
に反するので
となります。
同様に となります。
よって となって
であることに矛盾します。
よって となって
となり主張が成り立ちます。
[証明終わり]
(7) 単項イデアル整域の
ではない素イデアルは極大イデアルとなります。
『代数学2 環と体とガロア理論 第2版』命題 1.11.19
[証明]
を単項イデアル整域
のイデアルで
として、
を
のイデアルで
であるものとします。
のイデアルは単項生成なので
、
となる
が存在します。
となり
となる
が存在します。
は素イデアルなので
または
となります。
ならば
となります。
ならば
となる
が存在するので
となって
となります。
[証明終わり]
(8)
を単項イデアル整域、
を
の既約元とすると
は体となります。
『代数学2 環と体とガロア理論 第2版』命題 1.11.19 の後半
[証明]
を単項イデアル整域、
を
の既約元とすると(5)より
は素元となります。
は素イデアルとなり(7)より
は極大イデアルとなります。
よって は体となります。
[証明終わり]
一意分解整域の別の定義
整域 が一意分解整域であることは以下の条件(a)と(b)が成り立つことと同値となります(wikipedia:一意分解環を見るとこちらの既約元による定義になっています)。
(a) 既約元の積に分解可能
の
でも単元でもない任意の元
に対して既約元
が存在して
と表すことができる。
(b) 既約元の積の表現は一意的
とし、
、
を
の既約元とすると、
ならば
であり、適当に並べ替えると任意の
に対して
となる。
(9) 一意分解整域ならば(a)
[証明]
(2)より成り立ちます。
[証明終わり]
(10) 一意分解整域ならば(b)
[証明]
(4)と(3)より成り立ちます。
[証明終わり]
(11) (a)(b)ならば既約元は素元となります。
[証明]
を
の既約元、
とします。
が存在して
となります。
(a)より の既約元
、
、
が存在して
、
、
となります。
となります。
(b)より は
、
のどれかと同伴となります。
-
が
のどれかと同伴ならば
となります。
-
が
のどれかと同伴ならば
となります。
[証明終わり]
(12) (a)(b)ならば一意分解整域
[証明]
(11)より成り立ちます。
[証明終わり]














