エレファント・ビジュアライザー調査記録

ビジュアルプログラミングで数式の変形を表すことを考えていくブロクです。

対称式の基本定理(2)

対称式の基本定理・証明1・一般の場合

次に、一般の場合について証明します。その前に、基本対称式の定義をもう一度書いておきます。

基本対称式

 n変数の多項式
 s_{k}=\displaystyle \sum_{1 \le i_{1} < i_{2} <  \ldots  < i_{k} \le n}^{}x_{i_{1}}x_{i_{2}} \ldots x_{i_{k}}
は対称式となります( k=1,2, \ldots ,n)。これらの対称式を基本対称式といいます。 n=2のときは x_{1}+x_{2} x_{1}x_{2}が基本対称式となります。 n=3のときは x_{1}+x_{2}+x_{3} x_{1}x_{2}+x_{2}x_{3}+x_{3}x_{1} x_{1}x_{2}x_{3}が基本対称式となります。

対称式の基本定理

[定理]

対称式は基本対称式の多項式となります。

[証明]

 f(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n}) を対称式とします。  f(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n}) cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n} という形の式の和の形で書くことができます。 この cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n} という形の式を単項式といいます。  f(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n})の中に(和の成分として)含まれている単項式を項ということにします。

 f(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n})の中に cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n} dx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n}という項があるとすると、これらの項をまとめて (c+d)x^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n}とすることができます。 よって f(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n})に含まれる項 cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n} a_{1} a_{2}、…、 a_{n}のどれかが異なるようにすることができます。 多項式 f(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n})をこの形に書き直したときの f(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n})に含まれる項全体の集合を T(f(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n}))とします。

 \sigma  n次の対称群(集合 {\{}1,2, \ldots ,n{\}}の置換(集合 {\{}1,2, \ldots ,n{\}}からそれ自身への全単射)全体の集合)の元とすると、 単項式 cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n}に単項式 cx^{a_{1}}_{\sigma (1)}x^{a_{2}}_{\sigma (2)} \ldots x^{a_{n}}_{\sigma (n)}を対応させる写像を定義することができます。 この(単項式全体の集合からそれ自身への)写像 \sigma と書くことにします。 このような写像 x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n} の置換ということにします。

 T(f(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n}))の元 cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n}をとります。  \sigma  x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n} の置換とすると、 f(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n}) は対称式なので \sigma (cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n}) T(f(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n}))の元となります。  cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n}に対して、 x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n} のすべての置換 \sigma によってできる \sigma (cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n})(の中の異なるもの)全体の集合を S(cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n})とすると、  S(cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n}) T(f(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n}))に含まれます。

単項式全体の集合に以下のように順序 \ge を定義します。 単項式 cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n} dx^{b_{1}}_{1}x^{b_{2}}_{2} \ldots x^{b_{n}}_{n} cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n}>dx^{b_{1}}_{1}x^{b_{2}}_{2} \ldots x^{b_{n}}_{n}であることを、ある k( k=1,2, \ldots ,n-1)に対して a_{1}=b_{1},a_{2}=b_{2}, \ldots ,a_{k}=b_{k}かつ a_{k+1}>b_{k+1}となることと定義します。 cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n}>dx^{b_{1}}_{1}x^{b_{2}}_{2} \ldots x^{b_{n}}_{n}または a_{1}=b_{1},a_{2}=b_{2}, \ldots ,a_{n}=b_{n}のとき cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n} \ge dx^{b_{1}}_{1}x^{b_{2}}_{2} \ldots x^{b_{n}}_{n}と定義します。 この順序 \ge は全順序となります。

 T(f(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n}))は空ではないとして、順序 \ge に関して最大となる T(f(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n}))の元 cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n}をとります。

 T(cs_{1}^{a_{1}-a_{2}}s_{2}^{a_{2}-a_{3}} \ldots s_{n}^{a_{n}})

の中で x_{1}の次数が最大の元は

 T\left( cx_{1}^{a_{1}-a_{2}}\left( x_{1}(x_{2}+ \ldots +x_{n}) \right) ^{a_{2}-a_{3}} \ldots s_{n}^{a_{n}} \right)

の元となります。この中で x_{2}の次数が最大の元は

 T\left( cx_{1}^{a_{1}-a_{2}}\left( x_{1}x_{2} \right) ^{a_{2}-a_{3}}\left( x_{1}x_{2}(x_{3}+ \ldots +x_{n}) \right) ^{a_{3}-a_{4}} \ldots s_{n}^{a_{n}} \right)

の元となります。 これを繰り返すと T(cs_{1}^{a_{1}-a_{2}}s_{2}^{a_{2}-a_{3}} \ldots s_{n}^{a_{n}})の中で順序 \ge に関して最大となる元は

 cx_{1}^{a_{1}-a_{2}}\left( x_{1}x_{2} \right) ^{a_{2}-a_{3}}\left( x_{1}x_{2}x_{3} \right) ^{a_{3}-a_{4}} \ldots \left( x_{1}x_{2} \ldots x_{n} \right) ^{a_{n}})=cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n}

となります。 よって T(cs_{1}^{a_{1}-a_{2}}s_{2}^{a_{2}-a_{3}} \ldots s_{n}^{a_{n}}) S(cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n})を含み、

 T(cs_{1}^{a_{1}-a_{2}}s_{2}^{a_{2}-a_{3}} \ldots s_{n}^{a_{n}})-S(cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n})

の中で順序 \ge に関して最大となる元を tとすると cx^{a_{1}}_{1}x^{a_{2}}_{2} \ldots x^{a_{n}}_{n}>tとなります。

よって

 f_{1}(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n})=f(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n})-cs_{1}^{a_{1}-a_{2}}s_{2}^{a_{2}-a_{3}} \ldots s_{n}^{a_{n}}

とおくと順序 \ge に関する T(f_{1}(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n}))の最大の元 t cs_{1}^{a_{1}-a_{2}}s_{2}^{a_{2}-a_{3}} \ldots s_{n}^{a_{n}}>tとなります。 ここで、もし f_{1}(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n})が基本対称式の多項式であるとすると、 f(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n})も基本対称式の多項式となります。 よって、 f_{1}(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n})が基本対称式の多項式であることを証明すればよいということになります。

 f(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n})から f_{1}(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n})を作ったのと同じ方法で、 f_{1}(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n})から f_{2}(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n}) f_{2}(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n})から f_{3}(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n})、と順に作っていくと、どこかの f_{r}(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n}) f_{r}(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n})=0となるか、または順序 \ge に関して最大となる元の x_{1}の次数は 0となります。すなわち f_{r}(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n})は定数となるので、基本対称式の多項式となります。 したがって元の f(x_{1},x_{2}, \ldots ,x_{n})も基本対称式の多項式となるということがわかります。

[証明終わり]