エレファント・ビジュアライザー調査記録

ビジュアルプログラミングで数式の変形を表すことを考えていくブロクです。

ABC予想と無限論理多項式(1)

ABC予想(1)

まず「ABC予想 - Wikipedia」に従って定義を述べます。自然数  n に対して、 n の互いに異なる素因数の積を  n の根基 (radical) と呼び、 \operatorname {rad} n と書きます。自然数の組  (a, b, c) で、 a + b = c, a < b で、 a b は互いに素であるものを abc-triple と呼びます。

ABC予想(1) (『日本一わかりやすいABC予想』に合わせて修正)任意の  ε > 0 に対して、次を満たすような abc-triple  (a, b, c) は高々有限個しか存在しない:

  •  c < \operatorname{rad} (abc)^{1+\varepsilon}

ABC予想(2) (ABC予想(1)と同値、Oesterlé–Masser の ABC予想)任意の  ε > 0 に対してある  K(ε) > 0 が存在し、全ての abc-triple  (a, b, c) について次が成り立つ:

  •  c < K(\varepsilon) \cdot \operatorname{rad}(abc)^{1+\varepsilon}

ABC予想がどのようなものなのかは『日本一わかりやすいABC予想』に書かれています。この本ではABC予想(2)がABC予想として書かれていて、ABC予想(1)はABC予想(言い換え)として書かれています。ABC予想(2)で  \varepsilon = 1 K(\varepsilon) = 1 としたものをABC仮予想としています。

ABC仮予想 全ての abc-triple  (a, b, c) について次が成り立つ:

  •  c < \operatorname{rad} (abc)^{2}

ABC仮予想が成り立つとすると、 (a^n, b^n, c^n) を考えることによりフェルマー予想 n \ge 6 の場合が成り立ちます。 n \le 5 の場合はワイルズの証明とは別に証明されているので、ワイルズの証明とは別に証明されたことになります。

ABC予想(2)

ABC予想入門 (PHPサイエンス・ワールド新書)』では、 a, b, c を整数としたABC仮予想に対応するものが書かれています。

abc予想(☆) 互いに素な整数  a, b, c a + b = c を満たすならば

  •  \max\{ |a|, |b|, |c| \} < \operatorname{rad}(abc)^2

が成り立つ。

また、 a, b, c を整数としたABC予想(2)に対応するものが書かれています。

abc予想 任意の  ε > 0 に対してある  K(ε) \ge 1 が存在し、互いに素な整数  a, b, c a + b = c を満たすならば

  •  \max\{ |a|, |b|, |c| \} < K(ε) \cdot \operatorname{rad}(abc)^{1+ε}

が成り立つ。

ABC予想(2)とは記述が少し異なりますが、同じことを主張しているようです。『ABC予想入門 (PHPサイエンス・ワールド新書)』では、整数に関する主張となっています。これは、多項式と整数を対応させているのだと思われるのですが、ABC予想では「多項式版」と「整数版」は直接対応していないようなので、このあたりがどうなっているのかさらに読んでみたいと思います。

また、『ABC予想入門 (PHPサイエンス・ワールド新書)』では、相異なる素数  p_1, p_2, \cdots, p_n の有限個の積全体からなる積に関する可換モノイドを  \mathbb{F}_1[p_1, p_2, \cdots, p_n] と表しています。素因数分解の一意性により、 \mathbb{F}_1[p_1, p_2, \cdots, p_n]単位元をもつ自明ではない可換環上の多項式環  R[x_1, x_2, \cdots, x_n] x_1, x_2, \cdots, x_n で生成される積に関する部分モノイドとモノイドとして同型となります。

素因数分解の一意性とは以下のようなものになります。

 p_1, p_2, \cdots, p_n を相異なる素数とし、 q_1, q_2, \cdots, q_k, r_1, r_2, \cdots, r_l素数とし、 \{p_1, p_2, \cdots, p_n\} = \{q_1, q_2, \cdots, q_k, r_1, r_2, \cdots, r_l\} q_1 q_2 \cdots q_k = r_1 r_2 \cdots r_l とします。 M \{\overline{p_1}, \overline{p_2}, \cdots, \overline{p_n}\} で生成された自由可換モノイドとし、 f: \mathbb{F}_1[p_1, p_2, \cdots, p_n] \to M p_i \overline{p_i} に写すモノイドの準同型とすると、 f(q_1 q_2 \cdots q_k) = f(r_1 r_2 \cdots r_l) となります。

 X を集合とし、 \mathbb{F}_1[X] X で生成される自由可換モノイドを多項式として見たものとします。すると、 P素数全体からなる集合としたとき、 \mathbb{F}_1[P] は正の整数全体からなる可換モノイドを多項式として見たものとなります。

多項式abc予想

ABC予想入門 (PHPサイエンス・ワールド新書)』では、「多項式abc予想」について書かれています。

多項式abc予想(1) (定理 4.1)  a, b, c \in \mathbb{C}[x] \setminus \{0\} を互いに素な多項式で、どれかは定数ではないとします。このとき  a + b = c を満たすならば

  •  \max\{ \deg(a), \deg(b), \deg(c) \} < \deg(\operatorname{rad}(abc))

が成り立ちます。ここで  \operatorname{rad}(abc) は \begin{eqnarray*}
a(x) & = & A \prod_i (x - \alpha_i)^{l_i} \\
b(x) & = & B \prod_j (x - \beta_j)^{m_j} \\
c(x) & =& C \prod_k (x - \gamma_k)^{n_k}
\end{eqnarray*} ( A, B, C は定数、 \alpha_i, \beta_j, \gamma_k は相異なる根、 l_i, m_j, n_k自然数 l_i, m_j, n_k \ge 1) のとき
 \displaystyle \operatorname{rad}(abc) = \prod_i (x - \alpha_i) \prod_j (x - \beta_j) \prod_k (x - \gamma_k)
とします。

この定理は一般の体  F で成り立つと書かれています。 F a, b, c の根をすべて含む場合は同じ証明ができるので、まずその場合の証明を書いてみます(ほとんど定理4.1の証明の引用)。

多項式abc予想(2)  F を体とします。 a, b, c \in F[x] \setminus \{0\} を互いに素な多項式で、 a' = b' = c' = 0 ではないとします。さらに  F a, b, c の根をすべて含むとします。このとき  a + b = c を満たすならば

  •  \max\{ \deg(a), \deg(b), \deg(c) \} < \deg(\operatorname{rad}(abc))

が成り立ちます。

[証明]  a + b = c微分して  a' + b' = c' が成り立ちます。この二つの式より  a \left(\cfrac{c'}{c} - \cfrac{a'}{a}\right) = b \left(\cfrac{b'}{b} - \cfrac{c'}{c}\right) が成り立ちます。

 \displaystyle \cfrac{a'}{a} = \sum_i \cfrac{l_i}{x - \alpha_i} \displaystyle \cfrac{b'}{b} = \sum_j \cfrac{m_j}{x - \beta_j} \displaystyle \cfrac{c'}{c} = \sum_k \cfrac{n_k}{x - \gamma_k} より  \operatorname{rad}(abc) \cfrac{a'}{a} \operatorname{rad}(abc) \cfrac{b'}{b} \operatorname{rad}(abc) \cfrac{c'}{c}多項式となります。

 a \operatorname{rad}(abc) \left(\cfrac{c'}{c} - \cfrac{a'}{a}\right) = b \operatorname{rad}(abc) \left(\cfrac{b'}{b} - \cfrac{c'}{c}\right) であり、 a, b は互いに素なので  a \mid \operatorname{rad}(abc) \left(\cfrac{b'}{b} - \cfrac{c'}{c}\right) となります。次数を比較して  \deg(a) \le \deg(\operatorname{rad}(abc)) - 1 < \deg(\operatorname{rad}(abc)) となります。

同様に  b \mid \operatorname{rad}(abc) \left(\cfrac{c'}{c} - \cfrac{a'}{a}\right) となります。次数を比較して  \deg(b) \le \deg(\operatorname{rad}(abc)) - 1 < \deg(\operatorname{rad}(abc)) となります。

 c = a + b より  \deg(c) \le \{ \deg(a), \deg(b) \} < \deg(\operatorname{rad}(abc)) となります。[証明終わり]

 F に対して、 F a, b, c の根をすべて含む体を考えると以下が成り立ちます。

多項式abc予想(3) (定理 4.3 (A))  F を体とします。 a, b, c \in F[x] \setminus \{0\} を互いに素な多項式で、 a' = b' = c' = 0 ではないとします。このとき  a + b = c を満たすならば

  •  \max\{ \deg(a), \deg(b), \deg(c) \} < \deg(\operatorname{rad}(abc))

が成り立ちます。ただし
 \displaystyle \operatorname{rad}(abc) = \prod_{h \mid abc, h は素元} h

この本ではさらに  a, b, c \in F[x_1, \cdots, x_n] のときを考えてみることが「お勧め」されていますが、これを考えると多項式と整数の対応がわかるのかもしれません。少し読んでみた限りではわからなかったのでもう少し読んでいきたいと思います。