エレファント・コンピューティング調査報告

極限に関する順序を論理プログラミングの手法を使って指定することを目指すブロクです。

群論の計算(12)

環上の加群

 R を環とします。アーベル群  Mスカラー乗法  \mu: R \times M \to M が以下の条件を満たすとき  M R 上の加群と呼びます( \mu(r,x) rx と書きます)。

  •  r(x + y) = rx + ry \  (\forall r \in R, \forall x, y \in M)
  •  (r + s)x = rx + sx \  (\forall r, s \in R, \forall x \in M)
  •  (rs)x = r(sx) \  (\forall r, s \in R, \forall x \in M)
  •  1_R x = x \ (\forall x \in M)

 R が体のとき  R 上のベクトル空間と呼びます。

環上の代数

 R を環とします。環  A に対して環の準同型  \psi: R \to A があるとき  A R 上の結合代数と呼びます( \psi(r)x ry と書きます)。

 A の加法だけを考えると  A R 上の加群となります。

 R が体のとき  R 上のベクトル空間となります。

環上の多項式環

 R を環とします。 R の元の有限個の列全体の集合を  P とおきます。 P に二項演算、加法  +: P \times P \to P と乗法  \cdot: P \times P \to P ( x \cdot y xy と書くこともあります)を

  •  (a_0, a_1, a_2, \cdots ) + (b_0, b_1, b_2, \cdots ) = (a_0+b_0, a_1+b_1, a_2+b_2, \cdots )
  •  (a_0, a_1, a_2, \cdots )   (b_0, b_1, b_2, \cdots ) = (c_0, c_1, c_2, \cdots )

と定義します。ここで  c_n = a_0 b_n + a_1 b_{n-1} + \cdots + a_{n-1} b_1 + a_n b_0 とします。

 P の元  (a_0, a_1, a_2, \cdots ) をある文字  X を使って

  •  a_0 + a_1 X + a_2 X^2 + \cdots

のように書きます。 a_0, a_1, a_2, \cdots のところを係数と呼びます。係数が  0 のところは書かなくても良いとすると有限の列で書くことができます。これを  R に係数を持つ不定 X に関する多項式と呼びます。この形に書いた多項式全体の集合を  R[X] と書きます。通常  X は大文字で書きますが  X を他の用途で使うこともあるので小文字で書くこともあります。

 R[X] の加法と乗法は文字を使った式の加法と乗法と同じなので  R[X] は環となります。
[証明] 実際に計算してみると、加法の定義は
 \begin{eqnarray*}
 & & (a_0 + a_1X + a_2X^2 + \cdots ) + (b_0 + b_1X + b_2X^2 + \cdots ) \\
 & = & (a_0+b_0) + (a_1+b_1)X + (a_2+b_2)X^2 + \cdots 
\end{eqnarray*}
であったので加法に関してアーベル群になっていることがわかります。加法の単位元 0、加法の  a の逆元は  -a となります。

乗法の定義は
 \begin{eqnarray*}
 & & (a_0 + a_1X + a_2X^2 + \cdots )  (b_0 + b_1X + b_2X^2 + \cdots ) \\
 & = & a_0b_0 + \cdots + (a_0 b_n + a_1 b_{n-1} + \cdots + a_{n-1} b_1 + a_n b_0)X^n + \cdots 
\end{eqnarray*}
であったので積が  a_i b_i に関して対称であることから乗法について可換であることがわかります。乗法の単位元 1 となります。
 p = a_0 + a_1X + a_2X^2 + \cdots  q = b_0 + b_1X + b_2X^2 + \cdots r = c_0 + c_1X + c_2X^2 + \cdots とおくと  (pq)r X^n の係数は  \displaystyle \sum_{i+j+k=n} a_ib_jc_k  p(qr) X^n の係数は  \displaystyle \sum_{i+j+k=n} a_ib_jc_k となって  (pq)r = p(qr) が成り立つので乗法の結合法則が成り立ちます。

 (p+q)r X^n の係数は  \displaystyle \sum_{i+k=n} (a_i+b_i)c_k  pq+pr X^n の係数は  \displaystyle \sum_{i+k=n} a_ic_k+b_ic_k となって  (p+q)r = pq+pr が成り立つので分配法則が成り立ちます。[証明終わり]

 R[X] R上の多項式環と呼びます。

 r \in R \sum_{n \in \mathbb{N}} a_n X^n \in R[X] の乗法  \cdot : R \times R[X] \to R[X] ( \cdot は省略することもあります)を
 r \sum_{n \in \mathbb{N}} a_n X^n = \sum_{n \in \mathbb{N}} r a_n X^n
と定義します。

 \psi: R \to R[X] \psi(r) = r と定義すると  \psi は環の単射準同型となります。 \psi によって  R[X] R上の結合代数となります。

 R が体のとき  R 上のベクトル空間となります。

環上のモノイド代数

 R を環  M をモノイドとします。 M が可換のときは環上の(可換)結合代数となりますが、ここでは直接作る方法で定義します。
 R[M] = \{ \xi : M \to R \ | \ 有限個の x \in M を除いて \ \xi(x) = 0 \}
とおきます。
 R[M] に二項演算、加法  +: R[M] \times R[M] \to R[M] と乗法  \cdot: R[M] \times R[M] \to R[M] ( \xi \cdot \eta \xi \eta と書くこともあります)を

  •  (\xi + \eta) (x) = \xi(x) + \eta(x)
  •  \displaystyle (\xi \eta) (x) = \sum_{x=yz} \xi(y)  \eta(z)

と定義します。多項式環と同様に  R[M] は環となります。

 r \in R \xi \in R[M] の乗法  \cdot : R \times R[M] \to R[M] ( \cdot は省略することもあります)を  (r \xi)(x) = r \xi(x) と定義します。

 R[M] R 上のモノイド代数と呼びます。 M が可換のときは環上の(可換)結合代数と同じものになります。

 M \{ X \} で自由生成されたモノイド  M = \{ 1, X, X^2, X^3, \cdots \} であるとき  R[M]多項式環  R[X] となります。

 \alpha : R \to R[M]  \alpha(r) = r \cdot 1_M とおくと  \alpha 環の単射準同型となります。 \beta : M \to R[M]  \beta(x) = 1_R \cdot x とおくと  \beta モノイド( R[M] は乗法に関するモノイド)の単射準同型となります。任意の  r \in R x \in M に対して  \alpha(r) \beta(x) = \beta(x) \alpha(r) となります。

 S、環の準同型  \alpha ': R \to S 、モノイドの準同型  \beta' : M \to S を任意の  r \in R x \in M に対して  \alpha'(r) \beta'(x) = \beta'(x) \alpha'(r) であるものとします。

 \rho \in R[M] \displaystyle \sum_{x \in M} \rho(x) x と一意的に書くことができるので  \gamma : R[M] \to S \displaystyle \gamma \left( \sum_{x \in M} \rho(x) x \right) = \sum_{x \in M} \alpha' ( \rho(x) ) \beta' (x) と定義することができて
 \gamma ( \alpha ( r ) ) = \gamma ( r \cdot 1 ) = \alpha' ( r ) \beta' (1) = \alpha' (r) ,
 \gamma ( \beta ( x ) ) = \gamma ( 1 \cdot x ) = \alpha' ( 1 ) \beta' (x) = \beta' (x)
が成り立ちます。

 \displaystyle \gamma \left( \left( \sum_{x \in M} \rho(x) x \right) + \left( \sum_{x \in M} \mu(x) x \right) \right) = \gamma \left( \sum_{x \in M} (\rho + \mu) (x) x \right) = \sum_{x \in M} \alpha' ( (\rho + \mu) (x) ) \beta' (x) ,
 \displaystyle \gamma \left( \sum_{x \in M} \rho(x) x \right) + \gamma \left( \sum_{x \in M} \mu(x) x \right) = \left( \sum_{x \in M} \alpha' ( \rho(x) ) \beta' (x) \right) + \left( \sum_{x \in M} \alpha' ( \mu(x) ) \beta' (x) \right)
 \displaystyle = \sum_{x \in M} \alpha' ( (\rho + \mu) (x) ) \beta' (x)
となるので  \gamma は加法を保存します。

 \displaystyle \gamma \left( \left( \sum_{x \in M} \rho(x) x \right) \left( \sum_{x \in M} \mu(x) x \right) \right)
 = \gamma \left( \sum_{x \in M} \sum_{x = y+z} (\rho(y) \mu(z)) x \right)
 \displaystyle = \sum_{x \in M} \sum_{\beta'(x) = y+z} \alpha' ( \rho(y) \mu(z) ) \beta' (x)
 \displaystyle = \left( \sum_{x \in M} \alpha' ( \rho(x) ) \beta' (x) \right) \left( \sum_{x \in M} \alpha' ( \mu(x) ) \beta' (x) \right) ,
 \displaystyle \gamma \left( \sum_{x \in M} \rho(x) x \right) \gamma \left( \sum_{x \in M} \mu(x) x \right)
 = \left( \sum_{x \in M} \alpha' ( \rho(x) ) \beta' (x) \right) \left( \sum_{x \in M} \alpha' ( \mu(x) ) \beta' (x) \right)
 \displaystyle  = \sum_{x \in M} \sum_{\beta' (x) = y+z} \alpha' ( \rho(y) \mu(z) ) \beta' (x)
となるので  \gamma は乗法を保存します( \alpha'(r) \beta'(x) = \beta'(x) \alpha'(r) であるから積はこのように書けます)。

したがって環の準同型  \gamma : R[M] \to S \gamma \circ \alpha = \alpha' かつ  \gamma \circ \beta= \beta' を満たすものが一意的に存在します。

以下の図式は可換図式となります。
 \require{AMScd}
\begin{CD}
R @> \alpha >> R[M] @< \beta << M \\
@| @VV \gamma V @| \\
R @>> \alpha' > S @<< \beta' < M
\end{CD}