エレファント・ビジュアライザー調査記録

ビジュアルプログラミングで数式の変形を表すことを考えていくブロクです。

群論の計算(2)

正規部分群

写像による分類

写像  f: X \to Y Y' \subseteq Y に対して  f^{-1*}(Y') = \{ x \in X | f(x) \in Y'\} と定義します。 X' \subseteq X に対して  f^*(X') = \{ f(x) | x \in X' \} と定義します。

注意:通常は  Y' \subseteq Y に対して  f^{-1}(Y') = \{ x \in X | f(x) \in Y'\}  y \in Y に対して  f^{-1}(y) = \{ x \in X | f(x) = y \}  X' \subseteq X に対して  f(X') = \{ f(x) | x \in X' \} と定義するのですが、 f^{-1}(y) y のところ、 f(x) x のところが1つの元の場合と集合の場合の区別ができないため、ここでは違う書き方をすることにします。

 f^*(f^{-1*}(Y')) = Y' となります。 \bar{X} = \{ f^{-1*}(\{y\}) | y \in Y \} とおくと次のような  \bar{f} : \bar{X} \to Y を定義することができます。

  •  f^*(C) = \{ y \} となるような  C \in \bar{X} に対して  \bar{f}(C) = y と定義する。

 \bar{f}単射になります。 \bar{f} を「 f単射化」と呼ぶことにします。

注意:これは一般的には同値類として定義できるのですが、ここではこの形しか使わないのでこの形で定義します。

 \bar{X} について以下のことが成り立ちます。

  • 任意の  x \in X に対して、 x \in f^{-1*}(\{f(x)\}) が成り立ちます。すなわち  x \bar{X} の元のどれかに属することがわかります。
  •  x \in f^{-1*}(\{y\}) \cap f^{-1*}(\{y'\}) とすると  f(y) = f(x) = f(y') より  f^{-1*}(\{y\}) = f^{-1*}(\{y'\}) となります。すなわち  x が属する  \bar{X} の元はただ一つということがわかります。

これをまとめると任意の  x \in X \bar{X} の元のどれかただ一つに属するということになります。

 x \in X の部分集合を元とする集合  \bar{X} で、任意の  x \in X \bar{X} の元のどれかただ一つに属するような  \bar{X} X の分類と呼びます。上記のように  f: X \to Y によってできる分類を「 f による分類」と呼ぶことにします。 x \in X x が属する  \bar{X} の元を対応させる写像  g: X \to \bar{X} を「分類への自然な写像」と呼ぶことにします。 g全射となります。

 f: X \to Y g: X \to Z写像とします。全射の場合が必要なのですが全射でなくても定義できるので写像としておきます。全単射  h: Y \to Z が存在して任意の  x \in X に対して  h(f(x)) = g(x) が成り立つとき、 f による分類と  g による分類は「同値な分類」ということにします。

 f: X \to \bar{X} を集合  X から  X の分類  \bar{X} への「分類への自然な写像」とします。 \Xi X f による分類とします。 g: X \to \Xi を「分類への自然な写像」とします。 g(x) = f^{-1*}(\{f(x)\}) となります。

 h: \bar{X} \to \Xi h(C) = f^{-1*}(\{C\}) と定義します。 h全射となります。 f^*(f^{-1*}(\{C\})) = \{C\} となります。 h': \Xi \to \bar{X} f^{-1*}(\{C\}) C を対応させる写像と定義すると、 h' h の逆写像となります。したがって  h全単射となります。 h(f(x)) = f^{-1*}(\{f(x)\}) = g(x) が成り立つので  f による分類と  g による分類は「同値な分類」となります。

剰余類

 G の部分群  H G の元  x に対して  xH G における  H の左剰余類と呼びます。 Hx G における  H の右剰余類と呼びます。

 H G の部分群とすると  H^2 = H H^{-1} = H となります。

 y \in G y \in xH を満たすならば、 y = xh を満たす  h \in H が存在します。 x = yh^{-1} \in yH となるので  xH \subseteq yH^2 = yH となり、一方  yH \subseteq xH^2 = xH も成り立っているので  xH = yH となります。

左剰余類全体の集合を  G/H とおきます。すなわち  G/H = \{ xH | x \in G \} とおきます。 f: G \to G/H  f(x) = xH と定義します。

 G/H に関して以下のことが成り立ちます。

  • 任意の  x \in X に対して  x \in xH となります。
  • 任意の  x, y, z \in X に対して  z \in (xH) \cap (yH) ならば、 z \in xH かつ  z \in xH より  xH = zH = yH となります。

したがって  G/H G の分類になります。

 f: G \to G/H を「分類への自然な写像」とします。 f(x) = xH となります。 \bar{G} G f による分類とします。 g: G \to \bar{G} を「分類への自然な写像」とします。 g(x) = f^{-1*}(\{f(x)\}) となります。 f による分類と  g による分類は「同値な分類」となります。

 G の部分群  H G の元  x y に対して左剰余類  xH yH の関係を考えます。 f: xH \to yH を左から  yx^{-1} をかける写像、すなわち  z \in H に対して  f(xz) = yx^{-1}xz = yz \in yH と定義します。 g: yH \to xH を左から  xy^{-1} をかける写像、すなわち  z \in H に対して  g(yz) = xy^{-1}yz = xz \in xH と定義します。  g \circ f f \circ g G の恒等写像の制限となっているので  f g全単射となります。

 G の元の個数が有限であるとき有限群と呼びます。有限群  G の元の個数を  G の位数と呼び  |G| と書きます。有限群  G の部分群  H の左剰余類(または右剰余類)の個数を  G における  H の指数と呼び  [G:H] と書きます。有限群  G の部分群  H の左剰余類の全体の集合  G/H G の分類であり、各左剰余類の間には全単射が定義できるためすべての左剰余類の元の個数は  H の元の個数に一致します。したがって  |G| =[ G : H ] |H| が成り立ちます。

 G の元  x に対して1つだけの元からなる集合  \{x\} で生成された部分群を  x で生成された部分群と呼び  \langle x \rangle と書きます。 \langle x \rangle の位数を  x の位数と言います。群  G のが1つだけの元からなる集合で生成されているとき巡回群と呼びます。

正規部分群

 G の部分群  H が、任意の  G の元  x に対して  xH = Hx を満たすとき  H G正規部分群と呼び  H \lhd G と書きます。正規部分群の左剰余類と右剰余類は一致するためこれを剰余類と呼びます。剰余類全体の集合を  G/H と書きます。

 G がアーベル群のときはすべての部分群が正規部分群となります。 G 自身と単位元だけを元とする集合  \{ e \}  G正規部分群となります。それ以外の正規部分群を持たない群を単純群と呼びます。

 H \lhd G のとき  x, y \in G に対して

  •  (xH)(yH) = xyHH = xyH
  •  (eH)(xH) = xHH = xH (xH)(eH) = xHH = xH
  •  (x^{-1}H)(xH) = x^{-1}xHH = H (xH)(x^{-1}H) = xx^{-1}HH = H

が成り立ちます。したがって  G/H (xH)(yH) = (xy)H を積、 eH = H単位元とする群になります。 G/H を剰余群と呼びます。

準同型

この節では写像の像と逆像の記法は通常の記法に戻します。すなわち写像  f: X \to Y に対して

  •  X' \subseteq X に対して  f(X') = \{ f(x) | x \in X' \}
  •  y \in Y に対して  f^{-1}(y) = \{ x \in X | f(x) = y \}
  •  Y' \subseteq Y に対して  f^{-1}(Y') = \{ x \in X | f(x) \in Y'\}

と書きます。

 G から群  H への写像  f: G \to H が積を保存するとき、すなわち

  • 任意の  x, y \in G に対して  f(xy) = f(y)f(y)

が成り立つとき  f を群の準同型と呼びます。 f全単射のとき同型と呼び、同型が存在するとき  G H は同型であると言います。

  • 任意の  G の部分集合  S Tに対して  f(ST) = f(S)f(T)

が成り立ちます。

 G単位元 e_G と書くことにします。 f(e_G)^2 = f(e_G) が成り立つので  f(e_G) H単位元となります。 x \in G に対して  f(x^{-1})f(x) = f(x^{-1}x) = f(e_G) f(x)f(x^{-1}) = f(xx^{-1}) = f(e_G) となるので  f(x^{-1}) f(x) の逆元となります。よって

  • 任意の  G の部分集合  S に対して  f(S^{-1}) = f(S)^{-1}

が成り立ちます。

 G f による像  f(G) \mathrm{Im} \ f と書きます。

  •  f(G)^2 = f(G)
  •  f(G)^{-1} = f(G)

が成り立ちます。
 H の空ではない部分集合  K が部分群であることは

  •  K^2 \subseteq K かつ
  •  K^{-1} \subseteq K

と同値であるため、 f(G) H の部分群となります。

 H単位元  e_H f による逆像  f^{-1}(e_H) f の核と呼び  \mathrm{Ker} \ f と書きます。 N = \mathrm{Ker} \ f とおきます。 e_G \in N となります。 E = e_H とおきます。 f(N^2) = f(N)^2 = E^2 = E f(N^{-1}) = f(N)^{-1} = E^{-1} = E が成り立つため  N G の部分群となります。任意の  x \in G に対して  f(x^{-1}Nx) = f(x^{-1})f(N)f(x) = f(x^{-1})Ef(x) = \{ f(x^{-1})e_Hf(x) \} = E となって  x^{-1}Nx \subseteq N x^{-1}Nx = N Nx = xN となります。よって  N G正規部分群となります。

 \bar{G} G f による分類とします。 x \in G に対して  f(xN) = f(x)f(N) = f(x)E = \{ f(x) \} であるから  N の剰余類  xN \bar{G} の元  f^{-1}(f(x)) に含まれます。逆に  y \in f^{-1}(f(x)) f(y) = f(x) となります。 f(x^{-1}y) = f(x^{-1})f(y) = f(x)^{-1}f(y) = f(x)^{-1}f(x) = e_H より  x^{-1}y \in N となって  y \in xN となります。よって  xN = f^{-1}(f(x)) となります。

よって  g: G \to G/N を「分類への自然な写像」とすると  f による分類と  g による分類は「同値な分類」となります。 G/N は群であり、 G/N の積は  G の積を元に定義されたものであるため  g は積を保存するので準同型となります。また、 \bar{G} G/N と同じ積を定義すると群になります。「 f単射化」 \bar{f}: \bar{G} \to H単射準同型となり、 \bar{f} の像は  \mathrm{Im} \ f となります。

以上のことをまとめると(第一同型定理)  f: G \to H が群  G から群  H への準同型であるとき

となります。