環の性質
「群の性質」で考えた「単項・二項マグマ」に二項演算を付け加えたものを考えます。これをここでは「単項・二項・二項マグマ」と呼ぶことにします。「単項・二項・二項マグマ」について「代入」を考えることで「群の性質」と同様に環で成り立つ関係を求めることができます。
Ring でこの式の変形ができるようになっているのですが、群の場合と違って半自動的にできるようになっていないので、式の変形のやり方がわかっていないとできません。以下で説明します。
環の定義から得られる関係
集合 に二つの二項演算 (加法)、 (乗法)が定義されていて、 次の条件が成り立っているとき、 は環であるといいます。
- 加法に関して可換群である。 すなわち
- (結合法則)(associative law) が成り立つ。
- (交換法則)(commutative law) が成り立つ。
- ある の元 が存在して、すべての の元 に対し が成り立つ。 を の零元(zero element)という。
- すべての の元 に対して、 の元 が存在して が成り立つ。 を と書く。
- 乗法に関して結合法則が成り立つ。すなわち が成り立つ。
- 分配法則(distributive law)が成り立つ。すなわち
- 、
の乗法に関する単位元を単に単位元と呼びます。単位元を と書きます。以下の関係が成り立ちます。
これは長くてわかりにくいので、加法の結合法則 が成り立つことを考慮して を と書くことにして書き直すと
となります。よって
「単項・二項・二項マグマ」の「代入」による方法
「単項・二項・二項マグマ」の「代入」による式の変形によってこの関係を求めることができます。\begin{cases}
\rho_{1} & = & ( & x & \mapsto & 0 + x & \to & x & ) \\
\rho_{2} & = & ( & x & \mapsto & x & \to & 0 + x & ) \\
\rho_{3} & = & ( & x & \mapsto & x + 0 & \to & x & ) \\
\rho_{4} & = & ( & x & \mapsto & x & \to & x + 0 & ) \\
\rho_{5} & = & ( & x & \mapsto & (-x) + x & \to & 0 & ) \\
\rho_{6} & = & ( & x & \mapsto & 0 & \to & (-x) + x & ) \\
\rho_{7} & = & ( & x & \mapsto & x + (-x) & \to & 0 & ) \\
\rho_{8} & = & ( & x & \mapsto & 0 & \to & x + (-x) & ) \\
\rho_{9} & = & ( & x, y, z & \mapsto & (x + y) + z & \to & x + (y + z) & ) \\
\rho_{10} & = & ( & x, y, z & \mapsto & x + (y + z) & \to & (x + y) + z & ) \\
\rho_{11} & = & ( & x, y, z & \mapsto & (x y) z & \to & x (y z) & ) \\
\rho_{12} & = & ( & x, y, z & \mapsto & x (y z) & \to & (x y) z & ) \\
\rho_{13} & = & ( & y, x, z & \mapsto & x (y + z) & \to & x y + x z & ) \\
\rho_{14} & = & ( & x, y, z & \mapsto & x y + x z & \to & x (y + z) & ) \\
\rho_{15} & = & ( & x, y, z & \mapsto & (x + y) z & \to & x z + y z & ) \\
\rho_{16} & = & ( & x, y, z & \mapsto & x z + y z & \to & (x + y) z & ) \\
\end{cases} から \begin{matrix}
x 0 & \xrightarrow{\rho_{4}} & x 0 + 0 & \xrightarrow{\rho_{8}} & x 0 + ( x_{8,2} + ( -x_{8,2} ) ) \\ & \xrightarrow{\rho_{10}} & ( x 0 + y_{10,3} ) + ( -y_{10,3} ) & \xrightarrow{\rho_{14}} & x ( 0 + z_{14,4} ) + ( -x z_{14,4} ) \\ & \xrightarrow{\rho_{1}} & x x_{1,5} + ( -x x_{1,5} ) & \xrightarrow{\rho_{7}} & 0 \\
0 x & \xrightarrow{\rho_{4}} & 0 x + 0 & \xrightarrow{\rho_{8}} & 0 x + ( x_{8,2} + ( -x_{8,2} ) ) \\ & \xrightarrow{\rho_{10}} & ( 0 x + y_{10,3} ) + ( -y_{10,3} ) & \xrightarrow{\rho_{16}} & ( 0 + y_{16,4} ) x + ( -y_{16,4} x ) \\ & \xrightarrow{\rho_{1}} & x_{1,5} x + ( -x_{1,5} x ) & \xrightarrow{\rho_{7}} & 0 \\
\end{matrix} が得られます。この続きは次回以降で説明したいと思います。